第33話 異常なしと言う異常
「…妙だな。結界に異常がない。」
町を覆う結界まで来て、レオガディオ様は首をかしげている。
無理も無いわ。結界が正常に動いているのなら、魔物が町に入り込むことなんて無いはずだもの。
それに、妙な事はそれだけじゃない。
「あの、レオガディオ様。さっきの魔物、ブラックドッグですよね?」
「あぁ。プレセアも気づいたのか。そうだ。アレは本来5~10体で行動し集団での狩りを得意とする賢い魔物。住処はここからかなり離れたダンジョンだし、近年で人間の住居区に現れた報告は無かったはずだが。」
ますます理解が出来ん。と何度も頭をひねって結界と向き合うレオガディオ様。
何か手伝えないかと私も本の知識を頭に巡らせる。
何処かで見た気がするのよ…魔物が突然現れ…
何かが思い出せそうで顔を上げた瞬間、目の前の光景に全てを持って行かれてしまったわ。
だって、レオガディオ様の背後に、今の今まで居なかった黒の人影が気配もなく立っていて、レオガディオ様の首にナイフのようなものを刺そうとしていたんだもの。
「レオガディオ様っ!!」
突然私に押されてよろけたお蔭で、人影の振り下ろしたナイフはレオガディオ様に刺さる事は無く、状況を瞬時に理解したレオガディオ様の攻撃魔法の反撃によって、人影は光に焼かれて消滅していく。
魔物特有の消え方…魔物だったのね。
「大丈夫かプレセア! 怪我をしたな? 見せて見ろ。」
険しい顔で振り返ったレオガディオ様の勢いにたじろぎながら引かれた腕に視線を落とす。
本当だわ。服が破れて血が滲んでいる。魔物がレオガディオ様に振り下ろしたナイフが、私の腕を掠めていたのね。全く気づかなかった。
傷口にレオガディオ様が手をかざす。
触れられていないのに何だかくすぐったい感じがするわね。これがレオガディオ様の治癒魔法? お母様に治してもらう時とはちょっと違う感覚があるけれど、開いていた切り傷が徐々にきれいな肌に変わっていった。
「プレセア様!」
治癒完了。と言うところで、聞こえた声に振り返ると、ルシアとセアが走ってやって来るわ。
どうやら魔物討伐は無事に完了したみたいね。
「ご無事ですか?」
「えぇ。ルシア達も無事そうで良かったわ。」
「はい。先の魔物の討伐は完了しました。…服が破れていますね。お怪我を?」
「すまないルシア嬢。奇襲の気配に気づけずに、プレセアが怪我を。」
「レオガディオ様のせいではありません。あの魔物、気配が全く無かったんですから。」
「気配の無い魔物、ですか?」
「えぇ。突然レオガディオ様の背後に現れてその首をかき切ろうとしていたから止めたのよ。レオガディオ様がすぐに対処して下さったからかすり傷ですんだし、問題無いわ。」
説明しながら、ふとそこに大きな問題がある事に気づいてしまったわ。
私には目もくれずにレオガディオ様の首を的確に狙っていた魔物。
殺気も出さず、明確な明確な目的をもって強者を狩る、そんな魔物が居るのかしら?
あれは明らかに、暗殺者の所業では無くて?
だけどあの消滅の仕方は明らかに人では無かったわ。
「魔物が的確にレオガディオ様を狙ったのですか?」
ルシアもきっと同じ考えなのね。困惑している。
と、そこに周囲を見回っていたセアが合流し、レオガディオ様に報告を始める。
「周囲に異常は見当たらないね。問題は解決してないけど、危機は去ったと言わざるを得ない。それからレオの張った人避けの結界の存在に気づいた人間が、
「そうか。私の結界魔法もまだまだだな。では、戻るとしよう。プレセア、今はこれで我慢してくれ。」
レオガディオ様が絹のハンカチを取り出し、可愛いリボンに結びあげ、破れた服に付けてくれた。
おかげで服装が一段階幼くなった気がするけれど、そもそも私子どもだし、破れているよりはよっぽど見栄えが良い。
それにしても、ハンカチでリボンなんて芸当何処で身に着けたのかしら?
上手く服と一体化したリボンからは上品で爽やかなレオガディオ様の香りがした。
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