第31話 お出かけです

 レオガティオ様との関係は、その後周囲が驚くほどに見事修復された。

 カロリーナ様の姿は見る影も無くなって、出かける回数、会う回数格段に増えたしね。


 という訳で、今日も馬車でお出かけ中。

 レオガディオ様のお誕生日のお祝いに、今年こそ町でレオガディオ様の服や装飾品を見繕って差し上げる予定よ。

 人に服を見繕うのは初めてだし、センスが問われるから不安だわ。しかも今回は正装ではなく、町にお忍びで来る時に着られるラフな服装がご所望なの。


 何をしてもTha王子様なレオガディオ様の育ちの良さを隠せるような服なんて、この世に存在するのかしら? 


 事前に色々とリサーチしてみた所、最近の貴族のお忍び服の流行は、シャツにベストを合わせてベレー帽をかぶるセミフォーマルな感じらしいわ。


 間違いなく似合うわね。でも、忍べるかって言ったら無理よ。だって、カッコいいもの。間違いなく何処の貴族かしら? って注目される。

 だからと言って、もっと市民に寄せて動きやすいチュニックスタイルにしてみたとして、これも目立ちそうよね。だって、レオガディオ様、美しいもの。悪目立ちしちゃうわ。

 あー。何でジーパンとTシャツが主流の世界じゃないのよ。

 そしたら、無地のTシャツにサングラスでも付けておけば難しいこと考えずに町を歩けるのに。

 んー。でも、ジーパンと無地Tでも、レオガディオ様はカッコいいだろうなぁ…


「あー。プレセアがまた、レオレオの事考えてお顔真っ赤にしてるー。」

「ちょっとティナ! またって何? もう!! 変なこと言わないでよ。 あっ、申し訳ありませんレオガディオ様。」

「その謝罪は何に対して? もしかして、私の目の前で、他の男の事を考えて頬を染めていたのかい?」

「!?」


 グイっと近づいたレオガディオ様は、その手に私の髪をサラッと掬い上げて優しく握りながら、不穏に口角を上げた。


「それは、妬けるな。」


 レオガディオ様から上品で爽やかな香りがふわっと鼻をくすぐる。

 その香りが整った顔をさらに輝かせてくるから、思わず見惚れてしまう…って、そんな場合じゃない。


「違います。ティナの軽率な発言に対してです。」

「では、プレセアは私の事を考えて頬を染めてくれたんだね。それは光栄だ。」


 満足そうに悪戯な笑みを浮かべて、握っていた髪にそっと口づけを落として離れていくレオガディオ様。

 最近のレオガディオ様は遠慮が全く無くなって、すぐこういうことをするから心臓が持たないわ。いつの間にか名前も呼び捨てになってるしね。


 色眼鏡を外してみてみると、意外にも茶目っ気と愛嬌あるお人柄で面白いし、でも決める時はビシッと王子様だし。副音声なんて無くても本当に私を好いてくれている事が伝わって来るしで…こんなアタックされて、絆されない人っている?

 せめてもの抵抗に、愛称で『レオ』と呼べと言われているけれど絶対に呼んであげない事にしているわ。


「どんな服装がレオガディオ様に合うか考えていただけです。レオガディオ様は私が選んだという理由で、何でも着てくれそうなので。」

「そうだね。プレセアが似合うと言ったら、布一枚でも着てみせるよ。」


 布一枚って…いやでも、顔が濃いめだからそれはそれで、古代ギリシャのキトンスタイルって感じで似合ってしまうんじゃないかしら?

 想像しても、ギリシャ神話に出て来る美青年の神様が神々しく輝いている姿しか想像できないわ。

 駄目ね。高貴な品は隠せないんだわ、美系男子のポテンシャル…恐ろしいわね。



「ティナ様。そろそろ町に着く頃ですよ。どうぞポケットにお戻りください。」

「えぇー。もう? つまんなーい。」


 隣に座っていたルシアの声に、飛び回っていたティナがぷくっと頬を膨らませながらルシアのポケットに収まる。


「レオガディオ様も、一応我々が同乗している事をお忘れなく。」


 そう、この馬車には、私とレオガディオ様以外にルシアとセアも乗っている。

 別の馬車に乗る予定を、私が二人きりは嫌といって一緒に乗ってもらったんだけど…レオガディオ様が一切遠慮してくれないから、馬車の中が気まずいわ。

 これならいっそ、2人で乗った方が気が楽だったかも。帰りは馬車をもう一台用意してもらおうかしら。


「これは申し訳ないルシア嬢。これでも遠慮しているんだが…私の婚約者はどうにも可愛すぎてな。つい。」


 うん。前言撤回。

 絶対この人と2人きりになってはいけないわ。

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