第30話 秘密の共有
光の粒子を振り撒きながら空を8の字に「わーい!」と浮遊するティナを、レオガディオ様はあんぐりと見つめていた。
やがてティナがゆっくりと高度を下げて降りて来る。私の手の上にそっと降り立つと、レオガディオ様に向かって可愛らしくお辞儀をした。
「初めまして。ティナと申しました。」
言ってからすぐに私の方を振り返る。
「どう? プレセアの真似っこしたの。上手?」
「えぇ。とっても上手。」
褒められて子どもみたいにはしゃぐティナの頭を撫でてあげる。
申しましちゃったけど、なんかそれすら可愛いもの。100点満点よ!
「…話せるのか!?」
「はい。ティナは妖精族の魔物ですが、意思疎通が可能です。そちらの…」
あ、まだ名前聞いてなかったんだった。
「これはこれは失礼いたしました。私はレオガディオ様に仕えさせていただいております、セアと申します。」
『因みにこの名前は宝石の姫からお名前から勝手に名前を頂いているみたいです。』
あぁ、プレセアのセアね。…もう、そういう情報はいただき過ぎて胃もたれ気味よ。
「プレセア嬢…いつ、セアの存在に?」
「先日謝罪に来られた際、レオガディオ様の周囲に友好的な魔物が居るようだと報告を受けまして、今日お会いして確信いたしました。セアさんはドラゴン族の魔物ですね?」
「あぁ。その通りだ。プレセア嬢、その…ティナ嬢の事をオリバレス公爵は?」
「勿論知りません。知っているのはここに居るルシアだけです。ですから本日は、彼女を連れてきました。レオガディオ様、単刀直入にお聞きしますが、何故、魔物と交流をされているのですか?」
「5歳の頃、凶悪なドラゴンの巣へ討伐に出かけた隊に同行するよう
何でもレオガディオ様は、そのドラゴンから、近い未来に
「目の前に討伐対象のドラゴンよりも大きなドラゴンが舞い降りた風景。何度思い出しても夢だった気がするが、セアが生まれここに居る。あのドラゴンの言葉を鵜呑みにする訳では無いが、近年魔物の狂暴化の報告は後を絶たないからな。セアとこうして出会った事には意味があると考えているんだ。ただ、セア自身は
「えぇ。私の場合は…庭に不思議な球根が落ちていたので、育ててみたらティナが生まれたというか…咲いたと言いますか。」
「球根? それは
一瞬で
育て方まで知ってるって、普通なの?
と思ったけど、ルシアが動揺しているのを見るに、普通ではないわね。
セアからの情報?
とりあえず、全部の秘密を暴露するつもりは無いし、ここは良く分からない態を崩さないようにしないと。
「はい。ご存じの通り私には魔力がありませんが…何か?」
「いや…プレセア嬢には何も問題はない。魔力が無い事を気にする必要など全く無いからな。ただ…魔物を咲かせられる球根には、魔力が必要と聞いた事があったものだから。失言を許して欲しい。」
そういえば、レオガディオ様には魔力無しを卑下する発言をされた事は無いのよね。
魔測定の儀の直後に頂いた手紙にも『私には一般人の2人分以上の魔力があるらしい。だから、プレセア嬢に魔力が無くても何も問題は無い』って、書いてあったっけ。
「申し訳ない。やはり気分を害したか?」
「いいえ。気にしていません。ただ、レオガディオ様は昔から変わらず、お優しいなと。婚約者とはいえ、政略結婚の相手、それも致命的欠陥がある女ですのに。いつも「気にするな」と声を掛けてくださいましたよね。その言葉には救われる思いがありました。」
「プレセア嬢…。確かに国王はオリバレス家の力を必要としている。だが、国政とは魔法が全てではないし、プレセア嬢の才能は国政を担うのに十分と判断している。何より婚約続行を願って来たのは私自身だという事は分かって欲しい。私は、君に欠陥があるなどと思った事は無い。ただ…カロリーナの事は、本当に申し訳なかった。アレには訳があったんだ。」
「そのようですね。セアさんの事を見られてしまい、結果としてカロリーナ様に従わざるを得なくなってしまったと。先ほどセア様からお聞きしました。」
いつの間に!?
と、レオガディオ様から視線を向けられたセアさんは、顔色を変えずに目だけを思い切りそらしたわ。
あ、言っちゃいけないやつだったかな?
「…情けない話だ。しかし、私の部屋にはもうドラゴンは居ない。これでカロリーナの顔色をうかがう必要は無くなった。ここまで時間がかかってしまったせいで、プレセア嬢との仲は最悪の状態になってしまったが…許されるのなら、挽回のチャンスを頂けないだろうか?」
『…一応レオの方を持たせてもらいますと、本来私が人型に変化でいるのは数十年は先の事だったみたいですよ。』
そう言えば、お兄様が綺麗なドラゴンの鱗を1枚くれたことがあったわね。
その時確か「レオが狂ったようにドラゴンの研究をしてるんだ」と言っていたっけ。
きっとあれも、セアさんの為…いえ、私達の為の研究の一部だったのね。
「正直、今日ここに来るまでは、私にとってこの婚約は義務でしかありませんでした。ですが、私たちが魔物と言葉を交わせる事には、何か意味があるはずです。私はまだ、課せられた使命をまだ知りませんが、レオガディオ様の傍にいる事が、それを知る近道のような気がいたします。そして何より、レオガディオ様が今日まで一人、密に抱えて来た事を、共有させていただけた事を光栄に思います。その信頼に応えられるようこれからも精進させていただきたいと思います。」
「プレセア嬢…。ありがとう。」
『すみませんね。宝石の姫。お手数ですが、うちのボンクラを宜しくお願いします。』
今にも泣きだしそうなレオガディオ様の奥で、セアさんもこっそり頭を下げていた。
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