第29話 心の声がだだ漏れです
レオガディオ様が再び席に着いてから、会話に副音声がついた。
そのせいで、心中穏やかでなくなってしまったわ。
だって…
「プレセア嬢が
『とか何とか言っているけど、初めから取り寄せるつもりなんてなかったし、やった事も無い菓子作りに苦戦した結果、結局間に合わなかった訳ですけどね。』
「口に合うかは分からないが、食べてもらえないだろうか。」
『という訳で、厳選した素材を取り揃え、公務を放棄して厨房に籠り、料理長に迷惑をかけまくって作った渾身のチーズタルト! 貴女の為だけに作りました。是非食べてください!!』
いや、食べにくいわっ!!!
『ちなみに、使用人はここ一週間でチーズタルトのようなものを一生分食べました。』
さっきからこんなのばっかり!
名前を聞き忘れちゃったけど、青年、絶対楽しんでいるでしょ!?
「プレセア様、申し訳ありませんが、少々席を外させていただきますね。」
遂に後ろで控えていたルシアが、肩がプルプルさせながら立ち去ってしまった。
笑いをこらえるのが限界に達したからって、一人置いてかないでよー。
でも、両手で覆うその顔に、涙をいっぱい貯めているのが分かるし、止められないわね。
馬車にでも戻って、思う存分笑いこけるんだわ。
ズルい!!
「プレセア嬢?」
「あ、申し訳ありません。では、いただきますね。」
「あぁ、無理はしなくていいからな。」
『あぁ、プレセア嬢が、私の作ったチーズタルトを口にする…大丈夫だろうか。いや、料理長からも太鼓判を押されたし、我ながら良い出来になったと思う。絶対に大丈夫だ! 平常心平常心…』
だから、食べにくいって!!
こっちこそ、平常心…平常心…よ。
っていうか、レオガディオ様顔はいつも通り整った完璧王子様なんだけど、本当にそんな事を考えてるのかしら?
まぁいいや。私もすました顔でチーズタルトをパクリ。
あら、普通に店レベルで美味しい…
「とても美味しいです。」
「お口に合ったなら良かった。」
『やったぞ! プレセア嬢が美味しいと、美味しいと言ってくれた!!! いや、それにしても今日もプレセア嬢は所作が美しいな。堂々としているのに、自然体で見ていて心地よい! だが、今日の装いはいただけないな…。』
アンナー!
この服はやっぱり駄目だったわよー!!
『なんなんだ。このプレセア嬢の愛らしさと大人っぽさの両方を引き出す、プレセア嬢の為にあるようなドレスは!!! 可愛い。美しい。今日の開催場所が
っていうか、もうレオガディオ様何も言ってないじゃない。いつもより穏やかな表情で、チーズタルトを食している。
なのに、ただただ副音声が永遠と聞こえてくるんだけど…これは何? 新手の拷問?
『あ、今のは先程レオが厨房で悶絶してた時の台詞です。』
あぁ、そうなのね。
タスケテ…誰か、タスケテ…もう、胸がいっぱいで帰りたいわ。
とりあえず、話題話題…
「あ、あの。レオガディオ様の御誕生日は何をご希望されますか?」
「そうだな…いつもの通り、買い物に付き合ってもらえたら嬉しいが…プレセア嬢の負担になるようなら、別の案を考えよう。」
『ちなみに、毎回買い物に誘ってるのは、純粋に宝石の姫に選んでもらった服を着たいからってのと、隙あらば宝石の姫に宝石の一つでも贈りたいかららしいよ。女性は気に入った装飾品があると目で追うんだって? だけど、いつも邪魔されて、今日も宝石の姫の好みが分からなかったーって嘆いてる。アホだよね。あ、因みにアバズレ女が選んだ服は、試着すらしたくないとかで、実は買ってないらしいですよ。王室御用達の店だから色々融通が利くらしい。』
あー、だから私は、「あれ買ってー」「これ買ってー」のカロリーナ様の荷物持ちになってた訳だ。確かにレオガディオ様は荷物が無かったわね。
後日配送なのかな、くらいにしか思ってなかったわ。
「プレセア嬢? やはり、私との外出は負担かな?」
はっ!
副音声に気を取られて返事をしていなかったわ。
「いえ。大丈夫です。でも、宝石はいりませんよ?」
「何故それを!?」
あ、しまった…。
えっと…えーっと……どうしましょう。
冷静に考えましょう。大丈夫よ、イレギュラーにも対応できるように練習を沢山してきたんだから。えっと…ここで出すのは青年?お兄様? それとも…
「カロリーナ様! そう、カロリーナ様かいつも服選びのお礼に、煌びやかな装飾品をいただいていますでしょ?」
「あ、あぁ…そうだったな…」
『お礼っていうか、ねだられて断れないだけだけどね。こいつ、アバズレ女に弱み握られていて、逆らえないんだよ。』
弱み…?
『ねーねー、弱みって何?』
突然挟み込まれたティナの声。多分ルシアの指示ね。グッジョブ!
『ボクの事だよ。可愛いフェアリーさん。』
『んと、ドラゴンさんと仲良しが見られちゃったの?』
『その通り。ボクはレオが作った不可視の結界の中で人目を避けて育ったんだけどね。たまたま結界の外に出ていた時に、アバズレ女がノックも無しにレオの部屋に突入して来て…。当時まだドラゴンの幼体だったボクと遊んでいる姿を見られたのさ。それから、レオはアバズレ女の所業にNOと言えなくなったのさ。』
『そうなんだ。教えてくれてありがとー』
あら、お礼が言えて偉いわね。ティナ。
じゃなくて…カロリーナ様は、王子の私室にノック無しで単身突入を果たした上に、王子を脅してたって事? 想像以上にヤバイ女ね。…でも、その話を信じるのなら、秘密を取っ払ってしまえば、レオガディオ様の負担は無くなるんじゃないかしら?
…って、何考えてるの私。
今更リスクを負って、レオガディオ様の負担を軽減する意味ってある?
「あの、レオガディオ様。」
「何だい? プレセア嬢」
「あー、チーズタルトのお代わりなんて…お願いしたらはしたないでしょうか?」
軽く握った手を頬にあて、あざとポーズで言った瞬間、レオガディオ様がガタンと勢いよく立ち上がる。
「そんな事あるはずがない。気に入ってくれて嬉しい。すぐに持ってくる。」
あらら。一人でさっさと走って行っちゃった。
でも、予想通りの行動。私はレオガディオ様の背中に苦笑する青年に呼びかける。
「あなたとレオガディオ様の関係を聞いてもいいですか?」
「育ての親…みたいなものですかね。どっかでドラゴンの卵を拾ったとかで、家に持ち帰り育てたそうですよ。」
「何故そんな事を?」
「さぁ。知りません。でも…あなたのおかげで、ボクに出会えたと良く言っています。だから、僕もあなたには感謝していますよ。頼りないですけど、悪い奴じゃないんで。」
「ふふっ。レオガディオ様の事、好きなのね。」
「どうでしょう。ただ、あいつが無謀な理想を叶えるというので、見届けてやろうと思っているんです。それが、こんな姿になってまでここに留まる理由ですかね。」
「理想って?」
聞こうと思ったけれど、レオガディオ様が帰ってきてしまったわ。残念。
しかも、ホールのチーズタルトが5個くらい乗ったワゴンを押してるし…どれだけ焼いたのよ!?
「好きなだけ食べてくれて構わない。良ければお土産に持って帰ってくれ。」
「アハハ… ありがとうございます。」
人払いのつもりで「お代わり」って言っただけだからお腹はすいていないし、もう胸がいっぱいで食べられないわ。
だって、レオガディオ様の今までに見たことが無い、少年みたいな可愛い笑顔には「本当に嬉しい」って書いてあるんだもの。
「ねぇ、皆に戻ってくるように言ってくれない?」
レオガディオ様の好意から目をそらすように、青年にお願いする。
頷く青年とは裏腹に、置いてけぼりで顔をしかめたレオガディオ様に向き直り、私は姿勢を正す。
「レオガディオ様、お話したい事があります。もう少しだけお時間宜しいでしょうか?」
何処からかスーっと冷たい風が一つ吹いて、場の空気が緊張に包まれる中、レオガディオ様はコクンと頷き席へとついた。
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