第23話 誕生日プレゼント

「じゃぁ、いっその事魔物の王国を作って私が女王になるってのはどう?」

「はっはっは。そりゃいいな。っと、誰か来たみたいだ。」


 そこが地下室である事も忘れて、世界征服について楽しく話し込んでいると、スズキさんがそう言って私のストールの中ににサッと隠れた。

 と、同時に、地下室の扉が開く。お父様だわ。


「プレセア、出なさい。」

「もういいんですか? 1週間くらいこのままで大丈夫ですよ?」

「レオガディオ殿下がいらして、全て聞いた。今までのアルダ公爵令嬢の愚行についても全てだ。」


 全部話したって何を? 何のつもりで? ったく、ややこしい事を。

 レオガディオ様の意向がさっぱり読めない。…でも、もう読むのは止めたんだった。

 だから、どうでもいいわね。


「プレセア、正直に答えなさい。お前はレオガディオ殿下との婚約関係を続けたいか?」

「正直に言ってよいのであれば、私がレオガディオ様との婚姻関係を望んだことは一度もありません。」

「一度も?」

「はい。それは私にとって義務であり、公爵令嬢としての責務です。」

「そうだな…」


 私から視線を外したお父様は、うつろな瞳で宙を見つめる。

 その何とも言えない表情には謝罪の念が込められている気がするわ。

 本当に、娘に甘いわね。この親。


「だからと言って、嫌だった訳ではありませんよ。おかげで学ぶことに意欲的にもなれましたし、魔力無しに対する世間の非難も最小限で済みました。WinWinの関係だったと思います。ですからお父様、私はどちらでも構いません。」

「プレセア、お前は本当に、賢いな。10歳とは思えん。」

「日付が変われば11歳ですわ。お父様。」

「そうか。」

「良い機会ですので、11歳の私の抱負、聞いてくださいます?」

「あぁ、聞かせてくれ。」

「他者に流されず、自分の意志を貫き通す。です。私はこれから、お父様が何を画策しようと、お兄様が何を言おうと、レオガディオ様との関係がどうなろうと、私の理想を実現するために、邁進していこうと思っているんです。与えられた環境に嘆く暇があったら、逆に利用する方法を考えていきますわ。ですから、私の事はどうぞお気遣いなく。」


 ちょっと傲慢だったかしら? お父様、驚愕している。

 でも、時にはハッキリ言うことも大切よね。私はもう、大人しくていい子のプレセアちゃんではないのよ!


「プレセアは本当に変わったな。…良い抱負だ。応援するよ。」


 優しく表情を崩して、フワッと目を細めたお父様。

 子どもの戯言と流したというよりは、真剣に子供の成長を喜んでいるみたい。

 お父様の愛を感じるわ。

 でも、真剣に「応援」なんて言われると、なんか逆に恥ずかしい気持ちになるわね。

 もちろん、顔には出さずに胸を張って見せるけれどね!


「時にプレセア、ホールでレオガディオ殿下がお前を待っている。」

「え…話がついたのでは無いのですか? 私は、お父様の決定に従いますよ?」

「いや。レオガディオ殿下はお前と話をしたいそうだからな、了承した。」

「我が家の意向は?」

「全てお前に任せよう。応援すると言っただろう? あんな男でもお前の理想に必要なら続ければいいし、不要なら切り捨てて構わん。 誕生日おめでとう。プレセア。」


 誕生日プレゼントが、王族との婚約破棄権って…しかも、あんな男とか言い始めちゃったし。

 お父様、実はかなり怒ってたのね。

 でも、流石に王族相手にそう強気には出られないわよ。


「心配する事は無い。我がオリバレス家は、王族の後ろ盾など無くともやっていける。」


 お父様が子どもみたいに楽しそうに笑う。この顔は、お兄様に少し似ている気がするわ。

 親子ねぇ。


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