第24話 誰かの声
「プレセア嬢! あぁ、無事でよかった!!!」
ホールに入るなり、レオガディオ様が今にも泣きそうな顔で私の肩を抱きしめる。
え…っと、んーと、私達、いつからそんな関係になったのかしら?
「レオ、プレセアが困っているから、離してやってくれないかい?」
元からいたお兄様のニッコニコの一声で、レオガディオ様はサッと両手を私から離してくれた。続いて一緒に部屋に入ったお父様が私とレオガディオ様の間にスッと手を広げ牽制してくれる。お兄様、お父様、ナイスです。
「本当にすまなかったプレセア嬢。まさか、一人で帰宅させる事になるとは。」
「いえ。私が勝手な行動をしたのは事実です。捜索隊まで出していただいたそうで、御迷惑をおかけしましたわ。」
「プレセア嬢、頭を上げてくれ。君が謝る事は何一つない。全ては私の責任だ。」
許して欲しい。と、逆に頭を下げて来るレオガディオ様。
私としても、謝ってもらいたい事なんて一つも無いんだけどなぁ。
というか、これだとお互いに謝り倒して話が進まなそうね。もう本題に入ってしまいましょう。
「頭を上げてください、レオガディオ様。私はこの通り無事ですから。それよりも、このように騒ぎになってしまった以上、私たちは今までの様には過ごせません。」
「あぁ。そうだな。それについてなのだが…プレセア嬢の意向を聞いても?」
「はい。魔法の才のない私には、レオガディオ様の婚約者は力不足です。無礼を承知で申し上げる事が許されるのでしたら、私は相応しい方にこの席を譲りたいと考えています。」
「………そうか。」
だから、何でそこでレオガディオ様が泣きそうな顔をするのよ!?
もしかして、私との婚約が破棄されるとマズイのは王室の方なの?
そういえば、先程お父様が「我がオリバレス家は、王族の後ろ盾など無くともやっていける」って怒ってたけど…
優秀な魔術師の家系のオリバレス家が国政から手を引いたら、確かに国がまずいのかも。
って事は、私の婚約って、人質だった?
あ、それとも…私の歌魔法の事は既に王に報告済みとか? あり得るわね。お父様と国王は幼馴染だから。
んー。何にせよ、全ての癒着関係を今解析するのは不可能だわ。
今は婚約破棄にだけ集中しましょうか。
―― 宝石の姫、頼む、もう一度だけ、このボンクラにチャンスをやってくれないか ――
どうにかして婚約破棄を突きつけてやろうと思ったところで、不意にそんな声が聞こえた。
ってこの声はスズキさん?
「って、誰かが言っているぞ。」
スズキさんがショールの下からコッソリ顔をのぞかせ隠れながら私に耳打ちしてくれている。
しかし、この緊張感の中で話をするのも…そうだ!
頭を抱えるふりをして、テーブルに置いてあった水差しとグラス目掛けて軽く倒れ込んだ。
「あっ、ごめんなさい。」
ガシャンっと割れたグラスと零れた水に動揺の姿を晒し意識をそちらにむ向けさせる事に成功したわ。
片づけを使用人たちに任せている隙に、しゃがみ込んでスズキさんと話を続けましょう。
「スズキさん、誰かって誰?」
「分からん。姿は見えねぇが、さっきから、そこのボンクラの行動は全て宝石姫と共に居る為にあったんだあよなぁ…。とか、これを機に本気で変わるから気はあるみたいだし、チャンスをやってくれってないか。とか、まぁ、こうなったのは自業自得だけどな。とか、ぼやいてる奴が居るんだよ。あ、ちなみに宝石姫ってのは嬢ちゃんの事みたいだぜ。」
「宝石の姫って…まぁ、いいわ。それってつまり…?」
「あぁ、王子さんの味方をする魔物が近くに居る。」
何でレオガディオ様に魔物の相棒が居るの! ズルい!!
じゃなくて…えっと、どういう事?
私の為に、私を虐げてたって事? 意味わかんないんだけど!?
あ、好きな子イジメたくなるタイプだったとか?
無い無い。何度も言うけど、好かれた記憶が無いもの。
「えぇー、どうしよう。それって信用できるの?」
「さぁな。俺は聞こえて来る声を拾ってるだけで、会話してるわけじゃねぇからな。相手も見えねぇし、判断はできねぇ。」
「そうよねぇ…」
「ただ、嘘をついているような気配はねぇ。それよりも…」
「魔物とレオガディオ様の関係性が気になるわよね。」
「あぁ。探るんなら、縁切りは待った方が良いかもなぁ。おっとっ」
スズキさんがショールの中に姿をすっぽりと隠す。
ほぼ同時にお父様が私の肩に触れた。
ガラス片も片付け終わったことだし、お父様に寄りかかる風を装って、そろそろ立ちましょうか。
「大丈夫か。プレセア。」
「申し訳ありません。少し眩暈がして…。粗相をしてしまいました。レオガディオ様も、大変失礼いたしました。」
「いや、プレセア嬢は何も悪くない。只でさえ疲れている所に押しかけた私の責任だ。」
「ありがとうございます。」
さて、どうしようかしら。婚約破棄の意向を伝えた以上、ちょっと待った! とも言えないし。
「時に、レオガディオ様はこの先をどう考えていらっしゃるのですか?」
「………私は、別れたくない。」
しょんぼりと肩を落としてるレオガディオ様。
本当に、いつもの余裕ある王子様キャラは何処へ行ってしまったのかしらね。
睨みつけるお父様の殺気が怖いのかしら? 因みに、私も怖いわ。圧が強すぎる。
でも、これはチャンスね。
「しかし、私にはそんな事を言う資格は無い。」
「では、僭越ながら提案を一つよろしいですか?」
「あぁ。是非。」
「もし、婚約が破棄になるとしても、半年後に控えているレオガディオ様の御誕生日のお祝いはさせていただきたいのです。私ばかり祝われては落ち着きませんので。」
言った瞬間、レオガディオ様の目が大きく開く。
その奥でずっと話を聞いているだけだったお兄様も開眼されてる。そんなに驚くことだった?
「ならば、本日のプレセア嬢のお祝いも日を改めてのやり直しをさせて欲しい。勿論、プレセア嬢の意向に全面的に添う。どんな高価な宝石でも、必ず手に入れて見せよう!」
「あ…ありがとうございます。」
でも、宝石は要らないわ。
そういうキラキラしたのは是非、カロリーナ様へどうぞ。
「今は何も思いつかないので、後日相談させてもらってもいいですか?」
「勿論だとも。ありがとう、プレセア嬢。」
感謝されることは何もしていないんだけど…やっぱり繋がりが切れるのはマズいのね。
「では、そのように。」
話し合いは無事終わると、レオガディオ様の見送りは、お兄様がして下さるというので、お言葉に甘えて私は部屋へ戻る事にした。
「あ、プレセアおかえり!!」
「んー、ただいまティナ!! それにスズキさんのファミリーも。」
眼前までふわーっと飛んで来て、「おつかれ!」っとほっぺに抱き着いてくれたティナと、ピョンピョン跳ねるスズキさんのファミリー達。
「スズキさんも、一緒に居てくれてありがとうね。なんか色々心強かったわ。」
「おうよ!」
「うー。本当ならティナがプレセアと一緒なのにー」
「じゃぁ、頑張って透化できるようにならないとね。私も、ティナと外出するの楽しみにしてるわ。」
「わーい! あのね、ティナ、プレセアが行ったタルト屋さん行きたいの~。スズキさんが滅茶苦茶良い匂いがするって言ってたから―」
「ふふふっ。そうね、私もまだあの店を制覇できていないし、今度は皆で行きましょう。」
「やったー!!」
スズキさんを、ファミリーの元に返してから、そのままベッドにダイブする。
ティナが飛んで来て、耳元でなんだか可愛らしい鼻歌を歌ってくれる。
あぁ、さっきまでギスギスした空気の中に居たから安心するわ。癒される…
気づかぬうちに疲労がたまっていたのか、気づくと私は、そのまま眠りに落ちていた。
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