第21話 男がいなきゃプリンセスは輝けない?
帰宅すると、家の中が軽くパニックになっていた。
どうやらプレセアが賊に連れ去られた可能性があるらしい。
「…いや、私ならここにいますけど?」
そんな事情を部屋で聴き、忙しなく人が行き交いする玄関ホールに降りていくと、大人たちの動きが面白い程ピタリと止まり、私の事を上から下までまじまじと確認した。
「プレセア!」
「プレセア様!!」
皆が青春映画のごとく集まって来てくれる。
一番最初に私に到着したお父様が、私の肩を掴みながら代表して質問を始めた。
「プレセア、いったい何があったのか説明しなさい。」
「それは私が聞きたいのですが…私はレオガディオ様と町まで出かけていただけですよ?」
「報告では、プレセアが急に消えたと聞いているんだが。」
あぁ、私が勝手にいなくなったのだから、こちらの有責にしろってことね。
だからって、こんな騒ぎを大きくする事ないじゃない。
「気分がすぐれなくて、先にお暇したんです。レオガディオ様はまだ町にご用事があった様でしたので。」
「馬車にも声を掛けないで?」
「あー、人気店でしたから、馬車もたくさん止まっていて、どれがレオガディオ様の馬車か分からなくなってしまったんです。ですが、「一人で大丈夫」と言った手前、レオガディオ様に聞きに戻るのも…と。申し訳ありませんでした。」
「プレセア、もしそれが本当なら、騒ぎを起こした責任は大きいぞ。レオガディオ殿下はお前のために捜索隊まで動かしたんだ。愚かなプライドの為に家の恥を晒した事になる。発言に間違いがあるのなら訂正を―――」
「ありません。どんな処罰も甘んじて受けさせていただきます。」
流石に、王家の馬車がワカラナイは無理があったわね。でも、どのみちこの場所で話せる事なんて全て虚偽だもの。
私が迷惑を掛けて、レオガディオ様は真摯に対応した。どうせそれが真実になるんだから。
「………地下室へ行っていなさい。」
「分かりました。」
我が家の屋敷の地下には、灯りの入らない真っ暗な部屋がある。
隙間風がどこからか入り込む、とても寒い部屋だから、牢は無いけれど、
だからか、皆が「それはあんまりです!」としてお父様に反論しようとしてくれるけれど、お父様の目をしっかりと見て返事をした私には、お父様が一番驚きと動揺の表情を浮かべているように見えるわ。
脅せば真実を話すとでも思ったのかしら?
でも、事実ならレオガディオ様にでも聞いて頂戴。
カロリーナ様の事も、自分の従者の事も、どうするかは私には関係ない事だわ。
私はお父様や心配する使用人たちに背を向けて、さっさと地下室へと移動した。
*
「うわぁ。聞いていたより寒いわね。そして暗い。」
あと、埃っぽいし…数年来使われてなかったのが伺えるわ。まぁ、我が家が平和である証拠だから、それはそれでいいんだけど。
「本当だなぁ。」
「え?」
手元から突然聞こえた声に視線を下げると、手に持っていたストールから小石が一つ飛び出した。
「え!スズキさん?」
「よう、嬢ちゃん。」
「何でここに?」
「はっはっは。気づかなかっただろ。実は今日ずーっと嬢ちゃんの肩に居たんだぜ!」
全く気づかなかった…。
寒いのでストールを肩にしっかりと羽織りながら一日を振り返るも…スズキさんの面影は全く思い出されない。
「じゃぁ、今日の事をずーっと見てたの?」
「おうよ。と言うより聞いていたな。その肩掛けに隠れてたからあんま見えてはねぇ。」
「何故?」
「ティナの奴が、嬢ちゃんに付いてくって聞かなくてなぁ。しかしあいつはまだ透化できねぇし、小石なら見つかっても怪しまれねぇだろうって事で俺が同行することになったんだ。俺の見聞きするもんはファミリーも見聞きできる。結果、ティナも遠くに居ながら嬢ちゃんを把握できるってんでな。」
「そうなのね。」
スズキさんたちはテレパシーみたいなもので一人が見た物を共有できるらしい。そんな事、初めて聞いたわ。
「あぁ。しかし、居る事くらいしか出来ねぇですまねぇな。出来る事ならあのあばずれ女に、二度と町にいけないくらいの醜態を晒させてやりたかったんだが。ティナもご立腹だっしな。」
「ふふふっ。いいのよ。カロリーナ様は、生ける恥さらしだもの。わざわざ手を下すまでも無いわ。」
「言うなぁ嬢ちゃん。」
驚いたけれど、ティナやスズキさんファミリーがちゃんと見守ってくれていたなんて、こんな嬉しいことないわね。居る事しか出来ないだなんてとんでもないわ。
一人でどうにかしようと思っていたけれど、これからは考えを改めないといけないかもしれないわね。
そうだわ。それなら、折角だし客観的意見を聞いてみましょう。
「ねぇ、スズキさん。今日の私とレオガディオ様、どうだった?」
「んぁ? 別に、普通だったんじゃねぇか? まぁ、婚約者って割にはちと固いようなきもしたが、貴族同士の政略婚ならこんなもんじゃねーのか?」
聞いといてなんだけど、何処目線!?
というか前から思っていたんだけど、スズキさんって人間の事情とか詳しすぎない?
でも、魔物事情も詳しいみたいでティナにアドバイスあげたりもしてるのよ。
やっぱり存在が謎過ぎる。でも、今は置いて置いて、話を進めましょうか。
「私、結構失言したわよね。」
「そうか? 別に失言とはとらえて無さそうだったけどなぁ。むしろ、楽しそうだったぜ。」
「まぁ、確かに今日はいつもとは違って話が進んだ方なのよね。でも、やっぱりレオガディオ様とこの先も続けていくのは無理だと思うの。だって、レオガディオ様はカロリーナ様の様な子が好きでしょう? 私、あんな醜態を晒しながら生きていけないわ。」
「いや、どうだかなぁ。あれは…」
「カロリーナ様って毎回ああなのよ。一昨年に植物園へ乱入してきた時は、私を進入禁止の毒沼へ落とそうと誘導してきたし、去年観劇に行った際にはボックス席に乱入して来てレオガディオ様の隣で観劇されたのよ。レオガディオ様の御誕生日は大体、買い物に付き合って欲しいって言われるから、装飾品を見繕って差し上げるんだけど、そこにも毎回現れて、「これが似合いますわ~」ってレオガディオ様と二人で盛り上がり、私は荷物持ちをさせられてます。でも、レオガディオ様は何も言わないんだもの。カロリーナ様が好き以外に理由ある?」
「…なぁ、嬢ちゃん、あの王子さんは本当に何も言わないのか?」
「えぇ。全く。」
「何でそんな奴と婚約続けてんだ?」
「王家からの命令だもの。断れないでしょ。だから毎回、何事も無く終わったって報告しているのよ。でも、今日はようやく悪役になったし、晴れて婚約解消かもね。」
「そりゃいいな。今夜はパーティーしようぜ!」
「いいわね。ふふふっ。」
でもどうしようかしら。そうすると、一気にプリンセスへの道が…。レオガディオ様、一人息子だし。
「んなの、嬢ちゃんが国盗っちまえばいいじゃねぇか。」
手の平でキランとしたり顔をしたスズキさんが言う。
この場には居ないけれど、「そうだそうだー」というティナの声も聞こえた気がしたわ。
国を盗る? 私が?
そんなの……
「めちゃくちゃ有りじゃない!」
何を怖気づいていたのかしら。
男の人が居ないと何もできない女の子だと思われる。それをムカつくって消し飛ばすくらいじゃなきゃ、本物のプリンセスにはなれないわ!!
もう、レオガディオ様の婚約者として正しい振舞いを。とか考えるのは止めて、自由に生きる事にするわ。
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