第14話 遅く起きた朝は
「…セア…」
「んー…だからティナ、人間には休息が大切で…」
「ティナ? プレセア様、大丈夫ですか?」
「んー…だからね…」
「起きて下さい。プレセア様。レオガディオ様がいらっしやっているんですよ!すぐにお支度を」
レオガディオ様?
あぁ、王太子でお兄様のご友人で私の婚約者の、レオガディオ様ね。
「冗談…今日は約束してないわよ。」
「冗談ではなく。来てるんですって! もうっ、布団剥がしますからね。」
う、さむっ…
久しぶりにアンナに布団を剥がされたわ。って、アンナ?
「今度は本当にアンナなの?」
眠い目を擦り時計を見る。
へ!? 10時30分!?
完全に寝坊じゃないっ。
昨夜、突如現れたティナとスズキさんの歓迎会?に、説明もないまま付き合わされて、やっと開放されたの4時とかだったしなあ…はぁ。
そのまま起きて図書室行けばよかった。
「まだ寝ぼけてるんですか? 私以外誰がプレセア様を起こすんです。もう、本当に時間ないので勝手にやらせてもらいますからね!!」
まだベッドの上から身体を動かせていない私の背後に立ち、アンナは徐ろに髪を梳かし始めた。
そういえば、前はこうして、よくベッドで髪を結って貰ったなあ。
元々は朝起きられないタイプだったから。
早起きしてる私を、アンナはどう思ってるのかしら?
「というか、なんでこんな時間まで…起こしてよ。」
「朝食の時間も、旦那様が出発する時間も、ちゃんと起こしましたよ。プレセア様がテコでも起きなかったんです。でも、ちょっと安心しましたよ。プレセア様が寝ていて。」
「あら、どうして?」
「最近は起こしに来てもベッドはもぬけの殻…だけならまだしも、ベッドメイキングまで済ませてあるし、身の回りの事も自分でなさる。勉学にも意欲的で、いつの間にか服まで作れるようになってて…。プレセア様が針と糸を持った姿見たことなかったのに、いったいいつ覚えたんです?」
「えっと、図書室にあった本で読んだのよ。読んだら試したくなって。」
「縫い物の本は、使用人の棚にありますから、梯子使わなければ取れませんよ?」
「あ……そうなの? んー…あったわよ。」
って、誤魔化すの下手かっ。
服は前世の知識を用いて作ったから、本の位置なんて把握して無かったのよ。
なんて、言い訳はできないわね。
これは詰めが甘かった。失敗失敗。
「ふふっ。そういう所ですよ。プレセア様が急に遠くへ行ってしまった様な気分でいましたけど、プレセア様はプレセア様だなぁって。」
「うぅ…。」
こんな簡単にボロが出るなんて…
応対力とポーカーフェイスを早急に身に付けなければいけないわね。
「子どもでいられるうちは子どもらしくいらしていいんですよ。私は、プレセア様がどんな選択をしようとも、プレセア様に付いて行きますから。」
諭すような、柔らかい口調。
アンナは私のコンプレクスをよく理解してくれているから、心配してくれているのね。
誰に話すのも許されない、お兄様の功績が耳に入る度に溜まっていく行き場のない鬱憤を、アンナにだけは吐き出して来た。
せめて賢くなろうとする私の足掻きを、一番側で見守ってくれていた人だ。
それなのに、「魔力があって良かったですね!」とは言わないで、私のらしくない行動を心配してくれるなんて。
「ありがとうアンナ。でもね、違うのよ。私ね、将来の夢が出来たの。」
「夢ですか?」
「そう。私はね、プリンセスになりたいのよ。」
アンナには隠し事をしたくないわ。
だから、返って来る反応は怖いけど、正直に話す事にした。
だけど、待てど暮らせど返答は返って来ない。
「アンナ?」
「はっ! 失礼しました。あの、プレセア様、『プリンセス』とは何ですか?」
「………」
そうか。この世界にはプリンセスという言葉が無いんだわ。
「えっと…誰からも愛される、博識で気高く美しくて優しいお姫様の事よ。」
そうやって言葉を並べると、なんか烏滸がましいわね。
だけど、アンナはそこは気にならなかったみたい。
「まぁ!」と声を上げたと思ったら、急にやる気になって私に化粧を施し始めたわ。
いや、私に化粧とかまだ要らないでしょ。私10歳よ!?
「っていうか、急いでいるんじゃなかったっけ?」
「えぇ。ですから一気に仕上げますよ!」
パンパンと手を叩いたアンナの合図で、他のメイドも現れて、3人がかりで私の身支度を整えてくれる。
いや、一人で出来るんだけど!? っていうか、見たことも無い豪華なドレスを着させられているんだけど、こんなのクローゼットに入ってた?
え? アクセサリーも付けるの? 宝石? イラナイイラナイ。
「さぁ、出来ましたよプレセア様。これで、レオガディオ様を骨抜きにできます!!」
…ありえない。夜会に出向くような格好にされてしまったわ。
しかも骨抜きって、意味わからない。
でも、「時間が無いから」と、背中をぐいぐいと押されて部屋から追い出されてしまったし…行くしかないわね。
レオガディオ様に、とんだ勘違い野郎とか思われないと良いんだけど…。
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