第13話 プリンセスに名づけセンスは必要ですか?
「セア…きて…ねぇ…おきて、プレセア…」
耳元で声がする。
アンナが起こしに来たのかしら。
寝坊しちゃったみたい…今日は図書室へはいけないわね。
それにしても眠い。
昨日はいつも通りに就寝したはずなのに…瞼が重くて開かないわ。
「プレセアーおーきーてー」
「はいはい。分かったから、今起きるわよっ!」
気合で体を起こしてみたけれど、部屋の中は真っ暗。
瞼をこすり擦り目を凝らして時計を見るも、まだ深夜を回った所じゃない。
どうりで眠いわけだわ。
アンナの姿も無いし、夢でも見たのね。寝直しましょう。
「まって、だめだめ、プレセア、ねちゃだめよー。」
あら、どうしてか声が聞こえるわ。
夢遊病? それともリアルな夢?
「どっちも違うよー。もう、プレセア、ちゃんと起きてー!」
何かが頬をペチペチと叩いているわ。
そこに視線を流すと、精巧なガラス細工のような蝶羽根が生えた手のひらサイズの女の子が、一生懸命に私の頬を引っ張っていた。
「妖精?」
流石に目が冴えたのでその場に居直ると、妖精も頬を引っ張るのを辞めて差し出した私の手の平にフワッと降り立った。
「えっと、あなたのお名前は?」
「名前? 付けて付けてー!」
「え? 私が付けるの?」
名前…名前…こういう時はまずは色味よね。
銀色の縁取りに、ガラス細工のような透明な羽。腰ほどまでまっすぐに伸びた髪の色も銀。
銀…シルバー…うん。名前としては無しだわ。
じゃぁ次は特徴。蝶羽根から連想されるのは、やっぱり蝶だけど、銀の蝶…シジミチョウ?
シジミちゃん…も無しね。美味しい貝のイメージが強いわ。
はぁ。ここに来て、己のネーミングセンスの無さに苦戦するなんて。焦れば焦る程名前なんて浮かばないし、美味しいお味噌汁でも飲んでほっこりしながら考えたいわ。
…シジミに相当引っ張られているわね。
長考している間も、妖精さんはキラキラと目を輝かせて見つめて来るし、プレッシャーが半端ないわ。
一旦視線を外しましょう…あ!
考えるふりをして視線を外した先にあった本棚。そこに『プラティーナドラゴンの冒険』がずらりと並んでいる。
そうだわ! 同じような色味だし、プラティーナドラゴンから名前を貰って…
「ティナでどう?」
「ティナ!? わーい! ティナ~♪」
光の粒子を振り撒きながら、私の周りをくるくると回り始めるティナ。
ふぅ、喜んでもらえたみたい。良かったわ。
「それでティナ、あなたは一体何処から来たの?」
「何処って、ずっと居たよ? ティナはね~、プレセアの歌を聞いて起きたの!」
「歌? 歌って、まさか!?」
腰を下ろしていたベッドからガバっと立ち上がり窓辺に置いてある鉢植えを覗く。
念のため土を掘り返しても見たけれど…無い! 球根も芽も何も無いわ。
「ティナ、この植物から生まれたの?」
「そだよ~。プレセアが柔らかいお布団と歌をくれたから、いっぱい寝て大きくなれたんだよ~。あと、オジサン!」
「オジサン?」
「プレセアが呼んでた! 使い魔は私の方なのに、先に仲良くなってお名前貰うなんてズルイのよ。プレセアの一番は私じゃなきゃダメなのよー!!」
両腕をくんで、プンスカと頬を膨らませながら羽根をパタパタさせているティナ。可愛いわ。
じゃなくて、オジサンって、あの石の事よね。あれは名前じゃないんだけど…ってか、まさか…? ちょっと様子を見てみよう。
「よぅ!」
「ひぃっ。」
保管していた小箱を恐る恐る開けてみると、やっぱり石にオジサンの顔が!?
待ってましたとばかりにニヤリと顔を出した。
この予想は、出来れば当たってほしくなかったかも。
「あんだよ、つれねぇなぁ。」
「ごめんなさい。ちょっと驚いて。」
「あ~。オジサン達。プレセアにお布団の事言ってくれてありがとうね~。」
「おぅ。良かったなぁティナ! だがよう嬢ちゃん、オジサンはねぇだろ。オジサンは。」
「そうね。ごめんなさい。」
「っつーことで、ほい名前。今度はカッコイイやつつけてくれよ!」
「えぇ!?」
また私が付けるの!? さっきネーミングセンス皆無だって証明されたばかりなのに!?
えーっと…そうねぇ。オジサンから連想すると…確か、オジサンって魚が居たわね。スズキ目ヒメジ科だったかしら?
ヒメジにしちゃうと、なんかヒメジィって呼びたくなってしまいそうだし…
「スズキさん。でどうでしょう?」
「スズキ…いいじゃねぇか! 博識そうだ。 お前ら今日から俺たちはスズキファミリーだぜ!」
ワーイワーイと飛び跳ねる
一つ一つに名前をとか言われたらどうしようかと思ったけど、それでいいのね。良かったわ。
ティナもすっかり打ち解けて、スズキさんファミリーの周りを飛び回って楽しそうにワイのワイのとしているし、これにて一件落着かしら?
で!?
これは一体どういうことなのかしら?
お願いだから誰か、この状況説明して―――!!
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