第11話 歌魔法のお勉強
それから私の生活には歌と魔法の授業が加わった。
いやぁ、歌魔法、すっごく面白いわ! だって、念が魔法として具現化するのよ。
発声練習や、ただ歌を楽しく歌っているだけなら、聞いている人も楽しくなるくらいで大した事は無いんだけれど、念じながら歌うと「雨雨ふれふれ~♪」で雨が降るの。
「迷子の迷子の子猫ちゃん~」で、探し人や探し物が見つかるのよ! 凄くない!?
一応、上手く念じれば「迷子の迷子の~」で雨にも出来なくは無いんだけど、歌詞に引っ張られちゃうせいか、晴れ・雨・晴れ?・嵐~とかになるの。屋敷の周りのお天気が迷子になったわよ。本当に、面白いわ。
魔法を教えてもらう際、まずは知っている歌を想いを込めて歌ってみてって言われたんだけれど、私の歌魔法の事情があったせいで、我が家に歌が流れる事はほぼ無かったのよ。お母様に子守歌を歌っていただいた記憶も無いくらいだしね。
だから、この世界の歌を殆ど知らない私は、日本語で日本の歌を歌う事にした。
それが逆に、神聖な呪文に思えるらしくて、教わってもいないのにそうして歌魔法を使いこなしている(ように見える)私の事を、「やはり聖女様の生まれ変わりなのでは!?」とお父様とお兄様が盛り上がっているのはちょっとやめて欲しいんだけど…。
ともかく、歌魔法の効果は素晴らしい。
これはもしかしたら、魔物とお友達になる事も不可能ではないんじゃないかしら?
あぁ、早く魔物とお近づきになりたいわ。
「プレセア様は、魔物とお友達になりたいのですか?」
「え!? 何で?」
「何でって、今そうおっしゃっていたじゃないですか。」
あら、声に出ていたの? お恥ずかしい。
これじゃ、授業に集中して無い事もバレバレだわ。
ルシアが教えてくれる歌は先住民族の歌みたいに独特で、なーんか頭に入って来ないのよねぇ…。
でも、こんな事を言っても全く動じないないなんて流石ルシア。
ルシアと過ごすようになって分かったんだけど、ルシアはやっぱり相当に優秀な魔術師だったみたい。魔物の下敷きになっていたことが不思議なくらいの腕があるみたいよ。
「騙されたと思って!」なんて言ってただけの事はあって、知識も豊富で思考は柔軟。教え方は上手いけど、先入観を押し付けてこないし、本当に9歳なのかしらってくらい考え方が達観しているから、話し込んでいるとあっという間に時間が過ぎるのよね。
「どうして人間ではなく魔物とお友達になりたいんですか?」
「いや。人間ともお友達にはなりたいわよ? でもそうね。それは…夢の為よ。」
「夢ですか?」
「えぇ。私には何に代えても叶えたい夢があるの。その為に、必要なのよ。魔物と言う相棒が。」
「相棒…ですか。魔物の相棒。…それって素敵ですね!! 流石プレセア様です。」
ルシアったら、両手をパチンと合わせて飛び跳ねる様に軽やかに微笑んでいるわ。
普通なら、頭が狂ったと医者に突き出されても可笑しくない回答だって言うのに…これだからルシアには偽る気も沸かない。
魔物に襲われて死にかけた癖に、事ある事に「魔物は本来そんなに狂暴な生き物じゃないんですよ」って言うし、純粋に魔物が好きなんでしょうね。
「あ、でも駄目ですよ、プレセア様。そんな事を他の方の前で言ったらお医者様を呼ばれてしまいます。」
「あ、流石のルシアでもそこは理解しているのね。」
「理解と言うか…私は実際呼ばれたことがあるんです。おかげで洞穴に20日程入れられて、魔物は敵だという文言をひたすら唱えさせられました。食事は無し、瓶一杯の水だけが置いてあって…死んじゃう所でしたよ。」
それはむしろ、異端児を確実に殺しに来てるじゃ…? 良く生きてたわね。
「ですから、今はまだ、公表するのはお勧めしません。」
「心得たわ。」
元より公表するつもりは無いけれども…って、今は?
「プレセア様が魔物とお友達になりたいと思っているなんて、私とっても嬉しいです。私、全力でサポートしますからね!!」
どういう意味か聞きたいけれど、ルシアはガッツポーズを作ってはしゃいでいるわ。くるくる回って、楽しそうにステップ踏んでいるし…これ、どうリアクションとっておけばいいのかしら?
とりあえず、その軽快な動きに拍手を送っておきましょう。 パチパチ。
「そうと決まればプレセア様、少々お待ちくださいね。」
喜びの舞を終えたルシアは、勢いよく部屋を出て行ってしまったわ。
こういう所は年相応なのね。こんな慌ただしい姿初めて…いや、最初に会った時もこんな感じだったわね。掴みどころのない、不思議な子。
暫くして帰って来たルシアは両手で一つの鉢植えを抱えて帰って来た。
可愛い薄紫のリボンでラッピングされた鉢植えを思わず受け取ると、そこにはチューリップの球根のようなものがちょこんと顔を出しているだけ。何の球根なのかしら?
「プレセア様には今日から、課題に取り組んでいただきます。」
「課題という事は、この球根を育てて花でも咲かせればいいの?」
「その通りです。ただ、この球根は簡単には育ちませんよ~。」
ふっふっふー
と、不敵な笑みを浮かべながら「いいですか?」と一本立てた指を頬に当てたルシア。
「この球根は、魔力を吸って発芽します。ですからまず、プレセア様には、この子に魔力を送ってもらいます。この時に与えられた魔力の質によって咲くものが変わるんですよ! そして、発芽したら、それに適した環境を整えてあげないといけません。光を嫌うもの、水を必要とするもの、大量の魔力を必要とするものなど、好む環境はそれぞれに違いますから、気を付けてくださいね。あまりに不適切な環境下だと、折角発芽しても枯れてしまいますから。」
「その、適切な環境と言うのはどうやって分かるものなの?」
「それは、大切に育てていればきっと分かりますよ。ふふふっ」
ルシアは相変わらず楽しそうな含み笑い。
きっと、それらを調べるのも課題の内なのね。これ以上は教えてくれそうに無ないわ。
「分かったわ。とにかく、まずは発芽を目標にしてみるわ。えっと、魔力を送るっていうのは…歌えばいいのかしら?」
「そうですね。プレセア様の場合は歌うで良いかと思います。歌や念によって、咲く子が変わる可能性もありますから、曲選びは慎重にしてくださいね。」
あら、それは聞いておいてよかったわ。
球根見てからチューリップしか頭に出て来ないから、取り合えずチューリップでも歌おうかなーと思ったけど、一度ちゃんと考えないといけないわね。
いや、でも花を咲かせるのが課題なら、チューリップでも咲けばいいのかしら…?
頭を悩ましていると、ルシアが手をパンパンと2回たたく。
「さぁ、では今日の授業はここまでとしましょう。プレセア様がどんな子を咲かせるのか、楽しみにしてますね!!」
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