第8話 歌魔法ってなんですか?
昼食を済ませて、今日の午後はなにをしようかしら? と食休めに考え込んでいると、突然お父様からの呼び出しがかかったわ。
朝仕事に出て行くのを見送ったはずなのに、いつの間に戻って来たんだろう。それとも急遽帰って来なければならない程重要な事なのかしら。
まさか…婚約者の事だったりして?
ちょっとドキドキしながらお父様の書斎のドアを開くと、真っ先に入ってきたのはソファーに腰かけたお兄様の黄金色の瞳。
なんだ。お兄様も一緒なのね。ちょっと安心。
「プレセア、早く中へ入りなさい。」
だけど、書斎机に肘を付いたお父様の機嫌はあまりよく無さそう。眉間にシワが寄っているし、声もいつもよりワントーン低いわ。
「大変失礼しました。それでお父様、ご用件はなんでしょうか?」
「うむ。単刀直入に聞くとしよう。プレセア、歌を歌ったかい?」
「歌? 歌いましたけれど…?」
誤魔化す空気じゃなかったので素直に答えると、「やはりか」と言いながらお父様は頭を抱えて
何故かしら?
習うのは保留にされているけれど「歌うな」とは言われてないし、問題は無いはずよね。
人間生きていれば歌を口ずさみたくなる事はあるでしょうし。
それとも私の音痴な歌を聞いた誰かが卒倒したとか…?
「お父様、全て話すと決めたはずです。賢いプレセアならば、正しく立場を理解するでしょう。」
お兄様は事情を知っているのね。お父様を説得してくれているわ。
でもお兄様、正しく立場を理解って…含みのある言い方、嫌な予感しかしないんだけど…。
長い間考え込んだお父様は「そうだな」とやっと顔を上げて私の目をじっと見つめて来た。
「実はな、プレセア。お前は歌魔法の使い手なのだ。」
「歌魔法ですか。…歌魔法とは何ですか? お父様。」
魔法の勉強を一切して来なかった私でも、この世界の魔法が、5つのタイプで分類されている事は知っている。
攻撃魔法…
魔物戦闘に特化した魔法の総称で、その形は魔術師によって異なるらしいわ。
漫画やゲームのように、火や水を操る人もいれば、魔法で創り出した剣や弓なんかで攻撃する人もいるって聞いた事があるわね。
因みにお父様は攻撃魔法を得意としているわ。雷を操るのよ。
結界魔法…
魔物から人や町を守るための結界を張る事が出来る、この世界では必要不可欠な魔法。
だけど結界魔法の使い手は極端に数が少ないらしくてね、魔測定でタイプ診断されると、国から支援金がタンマリ貰えるし、身分に関係なく敬われるようになるわ。
治癒魔法…
傷を癒す事が出来る魔法ね。
魔力量によって、治せる傷の深さが変わるんですって。
お母様は魔力量が多いから、大体の傷は治せるって言っていたわ。
生成魔法…
いわゆる、錬金術っぽい魔法ね。
薬草を魔法の力でより効果の高いポーションにしたり、普通とはちょっと違う材料で爆弾や生活雑貨を作れるのよ。
生成魔法で作った商品が並ぶ魔法雑貨屋さんは、一度入ると丸一日潰れるくらい面白いものが沢山あるのよ。
呪詛魔法…
これは対人間用に使われる呪術魔法。
人を呪ったり、呪い返したり。物騒な事この上ないけれど、貴族社会って言うのは悲しいかな、敵は魔物だけでは無いのよね。
お兄様が一番得意としている魔法ね。
魔法タイプは、確かこの5つ。
一般的には、魔判定で特定される得意タイプを特化して極めるらしいんだけど、稀に他タイプの魔法も学ぶ人もいるみたい。お兄様もそうよ。
尤も、タイプごとに必要とする魔力の質が違うらしいから、得意タイプ以外を実用レベルまで学ぶのはかなり大変らしいけどね。
で? 歌魔法って何?
「歌魔法の使い手とは…歌に魔力が宿る性質を持つ人間の事だ。」
「私の歌に魔力が宿っているとおっしゃるのですか?」
冗談はやめてよ。
今日まで部屋で散々歌って来たけれど何にも起きなかったわ。それに、私は魔力が無いのよ。魔法は使えないはず。
だけどお父様はゆっくりと頷いた。
「先ほど、家で世話をしている少女が目を覚ました。彼女はお前の歌を聞いたと言っている。」
「それは良かったですね。確かに私は苦しそうな彼女に少しでも安ぎをと子守歌の一つでも歌いましたわ。ですが、因果関係は証明できませんよね。そもそも、魔法では病気は治せないはずではありませんか。」
「治癒魔法ではな。しかし、歌魔法でなら出来るかもしれない。歌魔法は底知れない聖女様の力なのだ。」
…。
ちょっと頭が痛くなってきた。
歌魔法の次は聖女様? 聖女様って…何だっけ?
「聖女様は、魔物を退け人々に安寧の地を与えたとされる伝説の人だよ。プレセア。」
そうよね、お兄様。知っているわ。ちょと混乱しただけよ。
―――
1000年も昔、まだ人間の国が確立していなかった混沌の時代、強大な魔力を持った一人の女性が現れて瞬く間に魔物を滅ぼし、人間だけが居住する
まばゆい光に包まれながら、魔物を駆逐する姿はこの世のモノとは思えない程に美しく、人々は彼女を聖女様と呼び崇めたのである。
―――
この国の歴史の勉強をすると最初に出て来る文だわ。
聖女様は後にも先にも彼女一人。
今の時代においては、事実かも分からない伝承が語り継がれている程度で、存在的には…なんというか、
で、その、伝説の聖女様が扱っていた歌魔法とやらを、私が使えると言いたいの?
駄目ね。いくら考えても全く理解が出来ないわ。
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