第7話 プリンセスと井戸
洋服づくりは順調で、その日のうちに1着と、翌日はお休みだったので1日費やして3着ほど仕上げたわ。
屋敷の中から素材を集め、それを組み合わせる作業は、プリンセス映画のワンシーンに自分を重ね合わせられて楽しかったわね。
尤も、映画の中では相棒たちが頑張っていたのだけれど。
あぁ、早く相棒欲しいなぁ…。
代わりにメイドたちが使えそうな綺麗な布を探して持って来てくれたわ。
出来上がったのは、簡単なワンピースだけど、柄や装飾に気を使ったし、補強もしっかりとしたし問題無く着られるはずよ。
お母様も素敵な服ねって褒めてくれたしね。お洒落なお母様に褒めてもらえるのは、お世辞でも嬉しいわ。
少女の熱はまだ下がらないみたい。今は彼女の為に水を組む為に井戸までやって来た所。
お父様からは関わらない様言われているけれど、アンナに頼んでこっそりお世話を手伝わせてもらっているの。
まぁ、私が井戸の水を引き上げていても皆知らんぷりしているから、きっとお父様にも報告は行っていて、既に許可が下りているんだと思うけれど。
「早くあの子が元気になりますように。」
井戸の底に向かってそう呟く。もちろん、この井戸は願いが叶う井戸なんかじゃないけれど、やっぱりプリンセスに憧れる者として、井戸があったら願いを投げないと。でも、そうね…呟くだけじゃ、響かないし返っても来ないわね。やっぱり、歌って響かせないと駄目かしら?
「はやく~(はやく~)あのこが~(あのこが~)元気に~(げんきに~)なれ~ ♪(なれ~♪)」
なんちゃってね。
あ、まずい。外で歌っちゃった。誰も聞いてなかったかしら?
ともかく退散退散っと。
早く少女の部屋へ行きましょう。アンナに水桶を渡さなくちゃ。
…あら? 部屋の扉が半開きで中には誰もいないわ。
どうしよう。熱が移るかもしれないから部屋には入っちゃ駄目って言われているのよね。アンナ、何処へ行っちゃったの?
仕方ないから廊下で待つか…
「ん゛ん―っ ぐっ… はぁはぁ… 」
部屋の中から物凄い呻き声が聞こえてくる。
魘されているみたいね。大丈夫なのかしら? ちょっと心配。
せめてこの水で汗を拭いてあげられたら…うん。そうしましょう。
人助けを躊躇う理由なんてないわよ。それに、親の言う事を素直に聞くプリンセスなんていないのよ。
「少し触るわね。」
絞った布で少女の額を拭いてあげる。頬や首の方もトントンと優しく拭いてあげた。
本当に酷い高熱だわ、40度超えてそう。これじゃぁ、焼け石に水ね。
でも、やらないよりはマシかと思い、再び水で冷やしたタオルを絞って額に置く。
荒い息を吐いて、時々「ぐっ」と喚いて眉間にしわを寄せる少女を見ていたら、前世でインフルエンザに罹ったことを思い出しちゃったわ。
お母さんが寝ずに看病してくれたっけ。隣で子守歌を歌ってくれて、それを聞いたら安心したのよね。
「良い子よ おやすみ ~♪」
どうかこの子が安心して眠れますようにと、気づけば祈りを込めて歌っていた。
一曲歌い終わる頃には、少女からも規則正しい寝息しか聞こえなくなっていた。
まだ呼吸は荒めだけれど、落ち着いた様ね。
それにしても、アンナはいったい何処へ行ったのかしら?
まぁ、戻ってこないものは仕方ないし、これ以上ここに居てももう出来る事は無さそうだし、部屋に戻って午後からの授業の予習でもしようかしら。
カルラ先生ってば、最近は実際に合った判例から私が正しく罪を裁けるかをテストしてくるのよ。私が目指しているのはプリンセスであって裁判長ではないんだけどなぁ…。でも、いついかなる時も冷静に公平な判断を下すって難しい事よね。
時に答えの無い問題も答えを出さなくてはいけない立場があるのも事実。
前例をさらいながらしっかりと学んでいきたいわ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます