第6話 騒がしい朝
今日も私は早朝から、元気に図書室で本を読み漁っている。
残念ながら、魔物を使役する方法についてはまだ進展はないけれど、代わりに興味の出たものは片っ端から読んで教養を身に着ける事にしているわ。
今は料理本を読み終わって一息ついたところ。この世界には、前世にはない食材もたくさんあるし、今は出て来たものを食べるだけだれど、いつかキッチンに立たせてもらって、料理を作ってみたいわ。
はぁ、美味しそうなパイのレシピを沢山見たせいで、なんだかお腹がすいてきちゃった。
朝ごはんの時間にはまだ早いけれど、食堂へ行ってみましょう。
図書室から出ると、何だか屋敷内が騒々しい。どうやら玄関ホールの方で何かあったみたいね。
通りすがりに軽い気持ちで柱の影からホールを覗くと、髪型の乱れたお父様と、怪我をして出血しているお兄様の姿。お父様は腕に傷だらけの女の子を抱いているし、ただ事ではなさそうな気配だわ。何があったのかしら?
「あなた! オーロ!」
私の後ろから、お母様が勢いよく飛び出していく。
いつの間に居たのかしら? 気配が無かったからビックリしたわ。でも、今の声で私の存在も見つかってしまったので、大人しくお父様達に合流しましょう。
お母様は治癒魔法の使い手だから、お兄様の怪我はすぐに治ったみたい。
「何があったのですか?」
少女の治療に専念するお母様と、使用人たちに指示を出すお父様は忙しそうだから、お兄様にこっそりと聞く。
「夜中に町の結界の一部が壊されたんだ。それで魔物がオリバレス家の管轄に入り込んでね。お父様と討伐に出ていたんだよ。でも、もう魔物は消えたし結界の修復も終わったから安心していいよ。」
柔らかく微笑んだお兄様に、私は思わずぎゅっと抱き着いてしまったわ。
だって、お兄様はまだ子どもなのよ?
それが夜中から長丁場で魔物と戦って、怪我までして。大丈夫なわけが無いでしょうに。
「ご無事で良かったです。」
長男としての責務とか、魔術師としての才とか、私には分からない色々なものを背負っているだろうお兄様の、それでも微笑んで私に安心を与えようとしてくれる心境を考えていたら思わず涙が滲んで来ちゃった。
あぁ、恥ずかしいからそんなに不思議そうな目で見ないでください…。
でも、そりゃそうよね。
今までの私は家族と一歩距離を置いていたというか、魔法が使えない事はやっぱり負い目があったというか…。特に優秀なお兄様には嫉妬のような感情を持っていたりもして、分厚い壁一枚隔てて接していたような気がするもの。
でも、家族がそんな私を大切にしてくれたように、私だって家族を思う気持ちはちゃんと持っていたのよ。
「ありがとう。プレセア。」
お兄様が頭をポンポンと撫でてくれた。こんな事も、初めてね。人に撫でてもらうのって結構心地いいのものなのね。
これからは卑屈にならず、気持ちは素直に伝えていきましょう。
いつになく仲良しな私達には、いつの間にかお父様とお母様も背後で微笑んでいらっしゃる。
そういえば、少女の治療はどうなったの? っていうか、どなたなの?
「この子は魔物に襲われていたんだ。見つけた時には複数の魔物の下敷きで、何とか連れ帰ってきたんだよ。」
気持ちを察してくれたお兄様が教えてくれた。
その後で、怪我の治療は終わったけれど、かなりの高熱があるとかで、少女が目覚めるまでは家で保護するとお父様からも説明されたわ。
病気は魔法では治せないんですって。
客室へと運ばれていく少女は、見た感じ私と同じくらいの女の子。
傷が綺麗に治ったら、所々引き裂かれている薄汚れた服が余計に痛々しく感じるわ。
そうだ、それなら服を用意してあげたらどうかしら。
見たところ、彼女の装いは庶民より。だけど家にあるのは腐ってもドレスなのよ。
庶民がいきなりドレスで生活させられるのって、普段は洋服なのに、成人式に突然振袖着て1日過ごすくらいキツイと思うのよね。かといって、動きやすいって理由でお客様に使用人の服を貸すのも変な話でしょ?
うん、そうしましょう。そうと決まれば布を調達しないとね。
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