第3話 プリンセスの相棒候補探し

 結局、昨日は寝る前に軽くストレッチをするくらいしか出来なかったわ。

 ということで、今日から本格的にプリンセス計画を実行していくわよ!


 まずは、相棒! これは譲れない。その為に図書室へとやって来た。

 オリバレス家の図書室はとんでもなく広いのよね。

 だって日本で私が使っていた市営図書館より広い。

 しかも、5メートルくらいある棚の上ぎっしり本、本、本!


 難しい本や大事な本程上の方にあって、まだ135センチしかない私の手に届く本と言ったら、絵本や児童書ばかり。

 大人の手を借りれば欲しい本も問題無く手に入るけれど、魔物やら使役やら魔法やらと言ったら、また妙な誤解を生みそうだし、ここは自力で頑張りましょう。

 幸いな事に、図書室の本は綺麗に整頓されているし、備え付けのスライド式梯子を使えば何とかなりそう。

 さぁ、ここのロックをパチンと外して、あら、意外とスムーズに動くのね!

 流石は公爵家の図書室備え付け梯子。学校にあった軋む梯子とは大違いだわ。

 それでえーっと、魔物系はっと…うわぁ、魔物についての本は種族ごとにまとめてある。

 じゃぁ、とりあえず気になる種族の本を数冊持って降りましょうか。

 …と思って下を見る。本棚半分より上に昇ってきてしまったから、下を見ると頭がクラクラしちゃうわ。持って降りるとしたら2・3冊が限度ね。

 昇って降りてを繰り返すのは時間の無駄だわ。

 作戦変更。私は梯子にしっかりと座り込んで、その場で本を広げる事にした。


 スライム、鳥獣、神獣、怨霊、ドラゴン…実に様々な魔物についての研究データは面白すぎてつい目的も忘れて没頭してしまったわ。 

 えーっと、なんだったかしら?

 そう、相棒よ相棒!

 やっぱり、プリンセスの相棒だし、それなりの映えも必要だと思うの。

 だって相棒は、表紙をプリンセスと飾ったり、ぬいぐるみ展開する役割があるじゃない?

 っていうメタ発言は冗談として、だけど例えばネズミや森の動物たちみたいな、身近な動物ってなると、スライムやゴブリンになっちゃうのよ。

 やっぱり、もうちょっと可愛い子が良いなぁ。なんて思っちゃうわけ。

 で、見栄え重視で選んでみたんだけど、静寂の蒼狼せいろう『フェンリル』、黒炎の鳥獣『ネグロフェニックス』、紅を纏いし聖獣『ジャーマキリン』なんかがカッコいいし美しくて好き。

 でもなぁこの子達、どれも幻級の魔物なのよねぇ。強力な魔物達が巣くう、国の許可が無いと入れないS級ダンジョンへ出向けば会えるかもしれないけれど、魔物との戦いに立ち会ったことすらない一般人が会うのは不可能でしょうね…。

 そもそも私、戦う力が無いし。

 あぁ、せめて魔法が使えたら良かったんだけどなぁ。

 この世界で3歳になると当たり前に行われる魔力の量等を測る魔測定の儀式の結果、私は魔法能力が測定不能…つまり皆無だったのよね。

 教会の司祭様も「どんな子にもわずかながら反応を示す水晶が無反応なのは前代未聞だ」って驚いていたそうよ。

 しかもオリバレス家って、代々優秀な魔術師の家系なの。その頃には既にお兄様も頭角を現し始めていたから私にも注目が集まっていたらしくてね…何度も何度も測り直して、結果が変わらなくて、その場がかなり騒然としたらしいわ。

 本来ならその時点で捨てられても可笑しくは無かったんだけど、優しいお父様とお母様はそうはせず、魔法以外の学問を好きなだけ学ばせてくれた。

 おかげで私はお兄様やそのご友人とも政治の話が出来るくらいの知識が備わっている。

 その点は、両親に本当に感謝しているわ。

 国防に魔法が重宝されるとはいえ、それが全てではない世の中ですものね。


 でも、今目の前にある問題に対しては別よ。

 ダンジョンに行かなくちゃ相棒候補に会う事すらできないんだもの。

 魔法が駄目となると剣術だけど、この細腕じゃ、まともに剣を振るえるようになるのはいつの事やら、よ。

 前世では一応剣道、柔道、合気道、弓道、薙刀と習っていたけれど、対魔物相手に通用はしないでしょうし…んー、もどかしい!

 今すぐ行きたいけれど、今の私じゃ力不足すぎるぅ!!!


「っと、いけないいけない。焦りは禁物よ、プレセア…」


 自分に言い聞かせて、心を落ち着かせる。

 プリンセスは常に優雅に、お淑やかに居なくっちゃ。

 方法はきっとあるわ。


「プレセア様? いらっしゃいますか?」


 遠くから、アンナの声が聞こえた。

 うわ、まずい。

 こちらへ近づいてくるアンナの声に、私は急いで梯子を駆け下りた。

 残念だけど、梯子を片付ける時間は無かいから知らんぷりしようっと。


「プレセア様?」

「なぁに? アンナ。」

「あぁ、プレセア様、そちらにいらっしゃいましたか。お昼ご飯の時間ですよ…って、何を持っているんですか?」


 アンナの目線を追って、私も手元に視線をやる。

 しまった、ドラゴン族の図鑑を持ったまま降りてきてしまったわ。

 言い訳…言い訳…


「もしかして、プラティーナドラゴンですか? プレセア様は本当にお好きですね。でも、その本には載っていないと思いますよ。」


 言い訳を考えるより先に、アンナが勝手な解釈をしてくれる。

 プラティーナドラゴンは絵本や童話にも引っ張りだこで、誰もが一度はその背中に乗る夢を見ると言われている程、ポピュラーなドラゴン。

 その身体は名の通り銀白色の美しい色をしていて、その鱗は貴金属として価値のあるプラチナで出来ているの。だけど、残念ながら空想上の生き物でね、存在としては、河童やネッシーなんかに近いかもしれないわね。

 プラティーナドラゴンを題材にした児童書は人気が高くて、私も『プラティーナドラゴンの冒険』シリーズは大のお気に入り。全巻部屋揃えて、寝る前にアンナに読み聞かせをせがんだりしている。

 プラティーナドラゴンと主人公の人間とが言葉を交わし、絆を深めながら世界を旅する王道冒険ファンタジーなのよ。

 

 もしもプラティーナドラゴンが実在したなら、それこそ相棒にピッタリだけれど空想上の生き物だしやっぱり難しいわよね。

 


「…聞いてますか? プレセア様。」

「あ、ごめんなさい。その、プラティーナドラゴンの事、もっと知れるかなって思って。」

「それは分かりました。じゃなくて、危ないから梯子を一人で登っちゃ駄目ですよ?」

「あ、はい。」


「まったく、誰が出しっぱなしにしたのかしら?」と、小言を言いながらロックを外して梯子を仕舞ってくれるアンナ。

 子どもには仕組みは分からないと思っているようで助かったわ。

 でも、今後はもう少し慎重にやらないと駄目ね。

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