プリンセスへの第一歩

第1話 プリンセスの条件

 私が憧れるプリンセス。

 それは、ただ単に王女や王子妃になればいいというお話ではないわ。

 目指すのは『夢の国』シリーズに出て来る様な、勇敢さ、優しさ、賢さを持ったプリンセスよ。

 彼女たちがプリンセスと認められるには厳しい審査があると言われている。

 といっても、正式に条件が公表されている訳では無いのだけれど。

 それでも、少しでも彼女たちプリンセスに追いつけるように、私も私に試練を出す事にするわ。

 彼女たちがクリアしているとされる条件をクリアして、自分に誇れる愛されプリンセスになってみせるわ!!


 ということで…以下が私の考えたプリンセスの条件。


 1つ、人間である事。

 1つ、動物の相棒が居る事

 1つ、ドレスを着ている事

 1つ、歌が上手く自分の夢を歌える事。

 1つ、王女又は王位継承者と結婚する事。

 1つ、英雄的な行動、又は逆境を乗り越える強さを持っている事。

 1つ、興行成績が振るっている事。


 後、男の人が居ないと何もできない女の子だと思われてる…とかもあったけれど、他人の評価は自然と付いてくるものだから、これは条件から外しておくわ。

 あ、でも、助けてあげたいと思わせる愛嬌や健気さは必要…?

 まぁ、それは追々ね。


 それから上記とは別に、公爵令嬢としての責務もきちんとこなさなければいけないわね。自分の役割を棚に上げてプリンセス活動したって、きっと愛されプリンセスにはなれないもの。

 私には3つ上に優秀なお兄様が居るから、家督はお兄様が継ぐとしても、宰相の娘が目も当てられない娘であっていい訳が無いものね。

 今までも勉学には力を注いで来たけれど、これからはより一層勉学に励むわよ!!



「うん、中々いいんじゃない?」


 紙に書き出した条件を眺めてから、早速二重線で文字を消す。

 人間に産まれてよかった。最初で詰む所だったもの。

 それに、激甘なお父様のお蔭で、クローゼットの中には着用しきれない程のドレスが眠っている。

 シーズンごとにドレスを用意してくれるのはありがたいけれど、成長途中の10歳の少女に贈る量じゃないのよね。

 そういえば、今度また夏用のドレスを用意するために仕立て屋を呼ぶとか言ってたっけ…

 毎回メイドたちの着せ替え人形状態だし、今回は今あるドレスの仕立て直しにしてもらおうかしら。

「とても気に入っているのに一度も袖を通せなかったんです~」とか言って泣きつけば、何とかなるでしょう。あ、こういうところで愛嬌・健気ポイントを上げていけばいいんだわ。うん、私ってば冴えてるかも。


 っとまぁ、何にしても、まずは動物の相棒作りからよね。

 一説によれば、ドレスを着て動物の相棒さえいれば誰でもプリンセスらしいのよ。

 それ即ち、絶対条件! これが無いと始まらない。

 でも、これ結構厄介だわ。

 だって、どれだけ記憶を探っても、この世界には動物らしい動物が存在しないもの。


 というのもこの世界、生活圏は結界によって守られているのだけれど、町の外は魔物で溢れかえっているのよ。

 年に2回は国を挙げての魔物討伐が行われるし、魔物の巣となるダンジョンを攻略する為の冒険者育成にも常に力を注いでいる。

 だから必然的に、動物って言ったら魔物の事になっちゃうのよね。

 動く雪だるまは相棒認定されなかったらしいけど、魔物は相棒認定されるかしら?

 怪しいわね。

 でも確か…魔物の中にはドラゴンが居たはずよ。

 そして、相棒が龍やドラゴンのプリンセスも居る。って事は魔物は動物扱いでいいわよね!?


「ふふっ。目先の目標が決まったわね。」


 思わず自分でも不気味な笑いが口から洩れちゃった。

 魔物を使役できる様な話は聞いた事がないけれど、前例がないなら作ればいいだけよ。

 それってとっても面白そう。

 まずは数々の苦難を乗り越える相棒づくりから。

 絶対に魔物と仲良くなって見せるわ!


 そうと決まれば、早速図書室へ行って相棒候補を探すわよ! 

 折角ならこの美貌に映える魔物を探しましょう。


「失礼します、プレセア様。」


 私が勢いよく立ち上がった瞬間、ノック音と共にメイドのアンナが控えめに部屋へ入って来た。

 彼女は私に仕えるメイドで、肩までのウェーブがかったブロンド髪と、パッチリした目が特徴の、お人形の様な容姿の人。

 おしめを変えてくれた…かは知らないけれど、物心つくより前からずっと私の世話をしてくれている。

 いつもは明るく活発なほうなのに、やけにしおらしく部屋の入り口で立っているわ。

 丁度盛り上がってきた所に水を差したのだから、用件なら手短にして欲しいわね。

 というか、アンナの事は、前世を思い出してすぐに「暫く一人にして!」と、半ば強制的に部屋から締め出したはず。

 以降、ずっと放置してくれていたのに、何故今更入って来たのかしら?

 急用ならますます早く用件を述べて欲しいものだわ。


「その、お食事の準備が整いましたが…いかがなさいますか?」


 え? もう? 部屋に籠ったのは昼過ぎよ?

 そう思って時計を見ると、あら本当。

 私ってば6時間ほど自室にこもっていたみたい。

 自覚すると、確かに空腹な気がするわ。

 腹が減っては戦は出来ぬって言うものね。

 食事はちゃんと取らなくちゃ。


「そう。ありがとうアンナ。今行くわ。」


 応えた瞬間、アンナがぱぁっと表情を明るくさせた。


「いや、そんな喜ばなくても…」

「だってプレセア様、おやつの時間には声を掛けても無反応だったじゃないですか。ずーっと一人でブツブツ変な言葉を唱えていらっしゃるし、私、心配で心配で、呪いじゃないかって屋敷中の人に相談してしまいました。」


 え!? 呼びに来てたの? 気づかなかった…。

 しかも皆に相談したって…つまり、屋敷中の人が私が突然部屋に引きこもった事を知ってるって事じゃない。

 この調子じゃ噂に尾ひれはひれが付いてそう。

 この家に居る人達は、家族も使用人も皆心優しい人たちなんだけれど、気が早く心配性だからなぁ…なんてこった。

 食堂が『プレセアのご機嫌を伺う会』の会場になってなければいいのだけれど…。

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