第4話 「五輪書」とは
「五輪書」には約100の項目がありますが、そこで武蔵が教えてくれているのは「剣の技術」ではなく「真剣勝負とはどういうものか」ということです。
真剣勝負(殺し合い)とはどんな世界なのかという迫力を感じさせてくれるところに、この書最大の特徴(特長)があるのです。。
例えば、武蔵は水の巻において、戦いの最中に「瞬きをするな」と述べています。つまり、真剣勝負とは、瞬きをしている間、まさに一瞬の間に決まってしまうものだ、と教えてくれているわけです。
また、地の巻では「武器についての哲学」を展開することで、その後に続く水の巻と火の巻・風の巻における様々な戦い方のベース(基本的な考え方)を示してくれています。
私の大学日本拳法時代、先輩やOBから沢山のアドバイスを受けましたが、何一つ心に残った教えというものはありません。
例えば「優れた自衛隊や警視庁の日本拳法の技術」といっても、それはその人たち自身が自分で会得したから価値があるのであって、体力や経験の浅深が異なる人間(大学生)が、ただその「技術」の部分を切り取って真似してみたところで、どんな意味があるのだろうか。
40年前の私たちにとっての「五輪書」とは、日大のOB猪狩元修氏が見せてくれた「真剣勝負」の凄み、プロの迫力でした。
(立教・日大・東洋の合同練習で、猪狩氏が防具を着用してある学生と戦った時、開始わずか十数秒、氏の膝蹴りで相手選手の胴が割れ、その選手は気絶してしまった。)
猪狩氏の技術というよりも「プロの精神」「真剣勝負師の凄み」に比べれば、私たちの日本拳法なんて「ガキのケンカ」にしか過ぎない、ということを「心底教えて」くれた。
そういう学びこそ、大切ではないのでしょうか。
他人が苦労して得た「技術の真似」なんて、卒業して社会人になり「日本拳法のない生活」になれば、忘れてしまう。しかし、猪狩氏のプロ根性は、40年経った今でも鮮明に心に焼き付いています。
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