第3話 武蔵兵法の設計思想(アーキテクチャー)

   宮本武蔵は真剣勝負を通じて、以下のアーキテクチャー(設計思想)を確立しました。

   「五輪書」に述べられた約100項目とは、技術として覚えるべきものではなく、あくまで事例として提示されているに過ぎません。

   武蔵は「五輪書」に述べられた様々な原理や道理を組み合わること(アルゴリズム)で戦ったに違いないのですが、それは「五輪書」に述べられた項目を念仏のように唱えて(記憶して)いたわけではなく、その場・その時・その相手との戦いに最も適した「解」を、瞬間的に(アドリブ・行き当たりばったり)で考え出して実行したのです。その意味で武蔵は、アルゴリズムを運用するアーキテクチャーを主体にして戦った、といえるのです。

   

   ですから私たちもまた、彼の「五輪書」に述べられた各項目を絶対的なものと固定して考えず、武蔵のアーキテクチャーから瞬間的に生み出された、その場・その時・その相手に対する問題解決手順(の一つである)と考えて読むべきなのです。

   逆に言えば、武蔵のアーキテクチャーを自分のものにすれば、武蔵的なる問題解決手順は幾通りも自分自身で生み出すことができる、ということです。

   

   では、武蔵の兵法(戦いのアーキテクチャー:設計思想)の骨子は何か、といえば;   

   ① 理性(地の巻) 

    → 多角的なものの見方・真逆両方の視点・表裏の展開(観見自在の心)

    「武士とは死ぬこと」ではない(死ぬ覚悟があれば、百姓・町人・女子供でさえ、いつでも死ねるというのは、島原の乱で武蔵が実際に目にしたことでした)。

    勝負を冷静に捉え、どうやってこれを乗り越えるか(問題解決能力)という理性こそが、(本当の)武士にとって肝要なこと、と武蔵は言うのです。


   ② 物事の真理をストレートに見る(水の巻)

     これをこうすれば必ずこうなる、という物理的・数学的な原理。

   

   ③ 観見自在の境地(多角的なものの見方とミクロとマクロの目)(火の巻)

     相手の心に働きかけることで、原理を道理に変える。

    → 「火の巻」中の「むかつかせる」という道。

  巌流島の戦いで武蔵は、佐々木小次郎の心をそこへ導き、その結果、平常心を失った小次郎は武蔵に敗れた。(小次郎の太刀よりも30センチ長い武蔵が手にする木刀に、怒りで頭が一杯の小次郎は気付くことができなかった。)

   

   ④ 科学的な目(比較検証・実験と観察)(風の巻)

      → 他流派のアーキテクチャーを9つに分類し、その問題点を明らかにした。

   

   ⑤ リベラルな心(思ったこと・考えたことを現実に実行できる、自由で柔軟、且つ堅固な心)(空の巻)

  その場・その時・その相手に対し、即興で生み出された各種アルゴリズムを、同じく即興で且つ確実に身体が動かすことのできる心。確固としたアーキテクチャーの元、最も効果的なアルゴリズムをアドリブで即実行する。それが「五輪書」における「空の巻」のことなのです。



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