放浪の占い師 七未子
東 風天 あずまふーてん
第1話 放浪の占い師
七未子が占い師になったのは一冊の本の影響だ。
ご先祖に美奈という占い師がいて、そのやり方をまとめた秘伝書が「占い虎の巻」だった。
七未子の父の時三は言った。
「おれは、占いなんぞ、まったく関心がないけどな。ただこの本は、ご先祖様の大切なカタミだから保存はしているんだが、今度はお前に渡すから、どうにでもしてくれ!」
「へえ、どんなご先祖なの?」
美奈というご先祖は、サラリーマンの父に聞くところによると、大名の家柄で、生まれてすぐは戊辰戦争の最中だったそうだ。
「戊辰戦争?」
「お前、そのくらい知らないのか?明治維新の時の戦争だ!」
「知らない」
その美奈の父、原二郎は、官軍として戦ったそうだ。
その後、明治維新になって武士階級は廃止になったが、原二郎爺は貴族階級として何処かの県知事になったらしい。
だから美奈も、新しい時代になっても何不自由なく過ごしたらしい。
すると、美奈が十八才を過ぎた頃、好きな男ができた。
だが、その男の母親は占い師だったため、低い階層の人間と蔑んで結婚は反対され、しまいには、勘当されると駆け落ちして実家を飛び出したと言うのだ。
「中々、やるじゃん!ひーひーお婆ちゃん」
その翌年のこと、不運にも相手の男は結核で亡くなってしまう。
生活に困った美奈は、男の母親がやっていた辻占いの仕事を手伝うことになった。
辻占いといってもいろいろある。
彼女が手伝ったのは、吉凶などの文句を紙に書いて、辻に立って売りつけるというもので、美奈がやった方が、占いが当たって評判になった。
おかげで、どん底生活から這い上がることが出来、二十歳を過ぎるころには、曲がりなりにも新しい旦那が見つかった。
生活はまあまあ安定し、子宝にも恵まれて、十五年ほどは安定路線の生活を送ったらしい。
ところが、三十五歳を過ぎると、また、不安定な人生が待っていた。
またしても、夫を病気で失ったのだ。
「宿命ってやつね」
おまけに、明治十年の占い禁止令が発表されて、肝心な占いで食べていくことができなくなってしまう。
そうなると、官憲に見つからないように子供を連れて地方を放浪しながら占いをする道を選んだという。
苦難は五年間、続く。
そして、四十歳になって気づいてみると、放浪を続けながら占いをする生活が定着していた。
占いの収入はそこそこあったから、結局、占い中心で十五年ほどを送った。
だが、永年の苦労が祟ったのか美奈は脚の病気を発症して歩くのが不自由になり、とうとう、兄の代になった実家を頼って再び辛い五年間を過ごした。
やがて、病気が回復すると、美奈は六十歳になっていた。
美奈は再び放浪占いを始めた。
全国津々浦々を回り、そして、六十五歳のとき旅先で亡くなったという。
美奈の占いは、占い紙からだいぶ変化している。
自らの人生が、五年の不運期と十五年の幸運期を繰り返したことから、こうした運気の繰り返しを基にした占いに切り替わっており、それを秘伝書として残してのである。
「本にするなんて教養のあるお婆ちゃんだったんだ!でも、風変わりな一生を終えたご先祖がいたんだね……」
七未子は、美奈の一生もさることながら、美奈が占いについてこつこつとまとめた秘伝書をえらく立派なものに思えた。
「ちょっと、読んでみるか」
すると、何故だろうか、自分も占いをやってみようという気持ちが湧き上がってきたのだ。
大学生だった七未子は、試しに友人相手に秘伝書に書いてある通りに占いをやってみた。
すると、占いは大当たり!
大勢にやっているうちに感謝されることも多くなった。
そして、とうとう、大学を卒業すると、一直線で占いの道にのめり込んだのだ。
「まあ、若いうちだけね」
安易にそう考えて、美奈がやっていた《放浪の占い師》のあとを継いだのだった。
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