放浪の占い師 七未子

東 風天 あずまふーてん

第1話 放浪の占い師

 七未子の父の時三が言った。


「おれは、占いなんぞ、まったく関心がないけどな。ただこの本、「占い虎の巻」は、ご先祖様の大切なカタミだから保存はしているんだが、今度はお前に渡すから、どうにでもしていいぞ」


「へえ、うちのご先祖でどんな人なの?」

 

「美奈という名前のご先祖がいてな、出身は、大名の家柄でな、生まれてすぐは戊辰戦争の最中だったそうだ」


「戊辰戦争?」


「お前、そのくらい知らないのか?明治維新のときの戦争だ!」


「知らない」


「美奈の父の原二郎は、官軍として戦ったが、明治維新になって武士階級は廃止になってしまったから、原二郎じいさんは貴族階級として残ってな、どっかの県知事になったんだ」


「ずいぶんえらいご先祖がいたのね」


「じいさんがえらかったおかげで、美奈も、新しい時代になっても何不自由なく過ごしたんだが、十八才を過ぎた頃、好きな男ができてな。だが、その男の母親は占い師だったため、低い階層の人間と蔑んで結婚は反対されてしまったんだ。だから、しまいには、駆け落ちして実家を飛び出したと言う話だ」


「中々、やるじゃん!ひーひーお婆ちゃん」


「だが、不運にも相手の男は結核にかかって亡くなってしまったから、生活に困った美奈は、男の母親がやっていた辻占いの仕事を手伝うことになったそうだ」


「辻占いってなに?」


「大吉とか凶とかの文句を紙に書いて、辻に立って売りつけるというものだ。ところが、美奈がやった方が占いが当たって評判になったために、おかげで、どん底生活から這い上がることが出来てな、二十歳を過ぎるころには、曲がりなりにも新しい旦那が見つかったのよ」


「よかったね」


「生活はまあまあ安定し、子宝にも恵まれて、十五年間ほどは安定路線の生活を送ったらしいが、三十五歳を過ぎると、また、不安定な人生が待っていてな、またしても、夫を病気で失ったのだ」


「宿命ってやつね」


「おまけに、不運なことに、明治十年に占い禁止令ってのが発表されて、肝心な占いで食べていくことができなくなってしまったんだ。そうなると、官憲に見つからないように子供を連れて地方を放浪しながら占いをするしかなくなって、それを五年ほど続けたんだ」


「放浪か……なんか憧れるな」


「そして、四十歳になって気づいてみると、放浪を続けながら占いをする生活が定着していたんだね。何しろ、収入はそこそこあったから、結局、占い中心の生活で十五年ほどを送ったんだが、永年の苦労が祟ったのか美奈は脚の病気を発症して歩くのが不自由になってしまってな、とうとう、実家を頼って戻ると、意地悪な兄嫁が牛耳っていてな、いまさら何で帰って来たんだとののしられ、再び辛い五年間を過ごしたんだよ」


「かわいそうにね」


「やがて、病気が回復すると、美奈は六十歳になっていて、再び放浪占いを始めて全国津々浦々を回り、そして、六十五歳のとき旅先で亡くなったというんだな」


「ふーん、でも占いがあったからよかったのかな」


「まさに占い、さまさまだな。占いのやり方は、占い紙からスタートして、だいぶ変化しているのがわかるよ。自分の人生が、五年の不運期と十五年の幸運期をくり返したことから、こうした運気のくり返しをもとにした占いに切りかわっているね。それを秘伝書として残したわけだ」


「風変わりな一生を終えたご先祖がいたんだね。でも本にするなんて教養のあるお婆ちゃんだったんだね」


 七未子は、美奈の一生もさることながら、美奈が占いについてこつこつとまとめた秘伝書がえらく立派なものに思えた。


「私も、ちょっと読んでるみるわ」


 七未子は渡された秘伝書をさっそく読んでみた。


 すると、なぜだろうか、自分も占いをやってみようという気持ちがふつふつと湧き上がってきたのだ。


 大学生だった七未子は、試しに友人相手に秘伝書に書いてある通りの占いをやってみた。


 すると、占いは大当たり。


 だんだん、大ぜいを占っているうちに感謝されることも多くなると、とうとう、大学を卒業したあと、一直線で占いの道にのめり込んでしまった。


「若いうちだけやってみるか」


 美奈は、みごとに「放浪の占い師」のあとを継いだのだった。


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