第7話 近衛隊長の日記 3

 紫狐の月 三日



 はっきり言って、実に不愉快だ。


 宰相がまた、独断で物事を進めようとしている。


 東の国に備えるべく、国境線の防備を強化する。これはわかる。必要なことだ。

 そのための費用として、特別税を徴収する。これもまあいい。さすがの私とて、防衛施設の新設、補修や、兵の補充に金がかかることくらいはわかる。民衆は不満だろうが、国を守るための費用だ。我慢してもらうしかない。


 だが、今回はおおいに疑問だ。

 北の国との友好親善を図るのはいいとして、高価な宝飾品を贈るのは本当に必要なのか? まるで、属国が貢ぎ物をするようではないか。

 しかも北の国の王女を、国王陛下の妃として迎えたいなどと言い出した。あの口ぶりだと、すでに内々に話を進めているのかもしれない。


 陛下御自身も寝耳に水のことだったらしい。どうすべきか、おおいにお悩みだと、侍従長が嘆いていた。

 王家にとって政略結婚は世の常であるから、それは否定しない。結婚は愛だなどと青臭いことを言う気もない。

 だがそれを陛下御自身の御意向も確かめず、臣下の一存で進めるのは、君主に対する不敬きわまりないことである。


 思えば将軍の死以来、宰相は変わってしまったようだ。

 もっと理知的で謙虚な人物だったはずなのだが。


 もしかすると、それはあくまでも、政治家として権力を握るための見せかけだったのかもしれない。

 衆に優れ、王からも民衆からも愛された将軍に嫉妬や劣等感を抱きつづけ、そして将軍亡きいま、本性を現した。そう考えられなくもない。


 いや、待て。そうだとすると、あの裏切り者のうわさが現実味を帯びてくるぞ。宰相がもし、優秀すぎる友人を疎ましく感じていたのなら……。


 もしそうだとしたら……。


 私は近い将来、近衛隊長として重大な決断を下すことになるかもしれない。

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