第6話 大司教の日録 2
黄馬の月 二十六日
早いものです。将軍の国葬を取りおこなってから、一か月余りが経とうとしています。
葬儀を執りおこなうにあたり、ずいぶんと身が引き締まる思いをしました。なにしろ、国王陛下が御みずから御参列なさる国の一大事ですから、万に一つも手違いがあってはなりませんでした。
終わってみれば、おのれの至らなさは感じるものの、将軍が神の御許へゆかれるお手伝いはできたのではないかと思います。私の説教が皆の心に届き、国と国民を精神的に支える助けとなればよいのですが。将軍の、安らかならんことを。
それにしても、宰相様の痛々しいお姿は見るに堪えませんでした。
聞けば、お亡くなりになった将軍と宰相様は、若いころからの親友、盟友にして、切磋琢磨された仲だとのこと。宰相様にしてみれば、まさに半身を失った思いでありましょう。
正直なところ、教会の行事や礼拝には宰相様はあまりおいでにならないので、よく存じ上げませんでした。
しかし、棺に取りすがってお嘆きになる姿をみて、情けに厚く友愛の心の深い方だとよくわかりました。宰相様は文字通り、これからのこの国を支えていかねばならないお立場、私もなにかお役に立てたらよいのですが。
それはそうと、先日ミサにいらした侍従長の話によれば、巷にはいま、おぞましいうわさが流れているようです。将軍の死の裏で、売国奴が暗躍したのだとか。恐ろしいことです。ただのうわさであればよいのですが。
とはいえ、うわさにはとかく、なにがしかの真実が含まれているかもしれません。たとえばそう、南の国の異教徒の存在はどうでしょうか。
……あの国葬の日、私は見てしまったのです。式の始まる前に、教会の外の人目につかない場所で親しげに話す近衛隊長と南方民の姿を。
葬儀の日に、異教徒がなぜ私の教会を訪れたのでしょうか? なにかを探りにきたのではないでしょうか? そしてなぜ近衛隊長は場違いなはずの異教徒を警戒もせず、親しく接していたのでしょうか?
もともと近衛隊長は、直情的に過ぎるとの批判がある人物です。人を疑うことは神に仕える身としては良くないことではありますが、どうしても疑念が拭いきれません。
彼が一時の激情に駆られて道を踏み外すことのないよう、神に祈ることにいたしましょう。
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