第4話 近衛隊長の日記 2
黄馬の月 二十一日
将軍の国葬が終わり、一か月余りが過ぎた。
私の敬愛する偉大な将軍にふさわしい、立派な国葬だった。美しく飾られた花々が、大理石の教会に映えていた。
それに、参列者のなんと多かったことだろう。やはり、将軍は民衆からも愛されていたのだ。南方人の傭兵隊長まで来たのには驚いた。宗教が違うからと説得して参列はなんとか諦めさせたが、あれだけの人物だったのだ、それも当然といえば当然だろう。
大司教の説教も、なかなか良かった。将軍の信仰心の篤さと高潔かつ優しい人柄をたたえ、これからの我が国を思う説教だった。西の国の教皇についてなどは、政治的な提言をもふくんでいるように感じられた。
彼の考えでは、将軍は西の国の教皇に匹敵する人物だったと思っているようだ。あの話しぶりだと、どうやら、将軍と大司教とは懇意だったらしい。私はこれまであまり関心がなかったが、もしかすると大司教は、なかなかの好人物なのかもしれない。
良い葬儀だったが、ひとつだけ気になることがあった。宰相の振る舞いだ。王が将軍に最後の別れを告げようとなさっているのに、宰相は将軍の棺にすがり、なかなかその場を譲ろうとしなかった。
たしかに、将軍と宰相は若いころからの親友だとは聞いている。長年の友を失った悲しみと哀惜の気持ちは察するにあまりあるものだ。だがしかし、そのことを差し引いても、あのような態度は、やはり不敬ではないだろうか。
王にしたがって参列していた侍従長も、どうしたらよいかわからずに困っていた様子だった。ああした態度をあまり見せつけられると、他人はつい、その態度の裏を読もうとしたくなるものだ。心情はともかく、公式の場での振る舞いには気をつけねばなるまい。
これはひとり宰相だけの問題ではない。私自身の戒めとしよう。
もうひとつ。嫌なうわさが流れている。
わが国に裏切り者がいて、将軍の殺害に手を貸したというのだ。
そんな者がいるなど信じたくはないが、将軍ほどの人物が簡単に命を落とされるはずがない。そう考えると、身近な者の裏切りにあったというのは、じゅうぶんありえる話ではある。
そして宰相ならば、将軍の作戦行動について逐次報告を受けているはず……。
今後、すこし注意してみる必要がありそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます