44:イチャイチャしてるようにしか見えません
「『ありえないでしょう!! なんでそんな美形とあんたがくっつくのよ!! なんで幸せそうな顔してんのよ!! これじゃなんのために私はあんたからクロード王子を奪ったのよ!!』」
「『えっ? まさかとは思うけれど、あなた、私への嫌がらせのためだけにクロード王子と結婚したの? 誰かに命令されたわけでもないのに、全く好きではない相手と結婚したというの?』」
唖然として言うと、イノーラは貝のように口を閉じた。
「『ちょっと待ってよイノーラ、どういうこと!? 僕に好きだと言ったあの情熱的な夜の告白は嘘だったの!? 僕は君が本気だと思ったから父上たちを説得してセレスティアとの婚約を破棄したのに――』」
クロード王子が問い詰めるが、イノーラは答えない。そればかりか鬱陶しそうに夫を見上げ、そんなことよりとっとと助けなさいよこの役立たずと喚き始めた。役立たずとは何だ、それが夫に対する言葉かとクロード王子が半泣きで抗議する。
「……凄いな。嫌がらせのために婚約者を奪うとは」
醜い言い争いを始めた二人を見てリュオンは呆れ果てているようだ。
「ええ、本当に。嫌がらせのために好きでもない人と結婚するなんて、私には絶対に無理よ。リュオン以外の人と結婚するなんて考えられない」
ついぽろっと本音が漏れた。
「え?」
はっとして口をつぐんだけれど、時すでに遅し。
ばっちり聞こえてしまったらしく、リュオンは驚いた顔でこちらを見た。
「あ。いえ、あの、いまのはその、何でもないの。気にしないで」
慌てて両手を振る。
「いや無理だよ。どういう意味?」
リュオンは真顔で私を見つめた。
「そ、それはその……ほら! いまはそんなことよりイノーラをなんとかしないと!」
赤面し、タジタジになって後退する私にリュオンが詰め寄る。
「いやイノーラとかどうでもいい。あんなの三秒も要らない」
いや、『あんなの』って。
それに『三秒』って、一体何に必要な時間なんですか?
「それよりいまの言葉の真意を聞きたい」
既に私は壁際まで後退しているというのにリュオンが近づいてくる。
逃がさないとばかりに、彼は壁に手をついて身体と壁の間に私を閉じ込めた。
「し、真意って、あの」
リュオンの吐息がかかり、私は真っ赤になって身を縮めた。
ちょっと屈んだらキスされそうな超至近距離なんですけど、すぐそこに極上の顔があるんですけど!!
心臓が過負荷に耐えかねて爆発してしまいそうだ。
クロード王子との言い争いが終わったらしく、イノーラがちょっとあんたたち何してるのよとかなんとか言っているようだが、耳には入ってきても脳には届かなかった。
「おれ以外の人と結婚するなんて考えられない? なんかまるで、おれのことが好きだって言ってるように聞こえるんだけど。遠回しな告白だと受け取っていいのか?」
リュオンの指が私の頰に触れ、そのまま顎を持ち上げる。
私を見つめる青い瞳は怖いくらいに真剣そのものだ。
「だ、だから、いまはそんな話をしている場合ではなくてですね……ひ、人前でする話でもないような気が……」
「なら後で二人きりになったときに聞かせてくれるんだな?」
追い詰められた私は進退窮まり、困り果てていたのが実情なのだが。
「『私を無視してイチャイチャしてんじゃないわよおおおっ!!』」
ロドリー語が理解できないイノーラには私たちが戯れているようにしか見えなかったらしく、涙目で絶叫した。
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