五章 強盗犯の身元 1
「強盗犯の名前は
室内がどよめいた。ようやく遺体の身元が判明したのだ。しかし、誰だ。藤田まもるというのは。どこのどいつだ。
鈴木の予測は外れたことになる。林克行と強盗犯は別人だったのだ。
「僕の言っていた、克之強盗犯説はなくなりましたね」
「ああ、そうだな。でも、いろんな角度から考える必要があるから、悪い発想じゃなかった」
「ありがとうございます」
「それに、林克行が行方不明なのは事実だ。克之と藤田まもるという人物は、どこかで接点があったのかもしれない。調べたほうが良さそうだな。下手したら共犯の可能性もある」
「そうですね。とりあえず、もう一度、林家に行って聞いてみますか?」
「そうだな」
岩山田と鈴木は八王子の林家に向かった。ようやく少し薄暗くなって、気温もしのぎやすくなってきた。
喜美子は部屋着に着替えており、昼間に会ったときより少し老けて見えた。「あがりますか?」という喜美子の申し出を断って、玄関で話をする。
「今日は突然失礼いたしました。もう一つだけ、お聞きしておきたいことがあるのですが」
「何でしょう」
「藤田まもる、という人物に心当たりはありますか?」
「藤田まもる……?」
「はい。もしかしたらご主人と交流があったかもしれないので、確認なんですが」
「知らないですね」
「そうですか。息子さんは……」
「少しお待ちください」
そう言って喜美子は行斗を連れてきた。
「何度も押しかけてすまないね。藤田まもるという人を知っているかい?」
「藤田……まもる? 知らないですね」
「そうですか」
岩山田は、しらばっくれている感じではないな、と思った。本当に知らない様子に見える。
捜査員全員に配られた藤田まもるの十年前の写真(運転免許証からのコピー)を、ジャケットの内ポケットから出して見せた。
「この人なんですけど」
一瞬、空気がひゅっと緊張したのが岩山田にはわかった。鈴木を見ると、同じく何か悟ったのか、すっと目を細めて、喜美子と行斗を観察している。
岩山田はあえて今まで通り静かな声で聞いた。
「藤田まもるって、この写真の男なんですけど、顔見ても、わかりませんか? 見覚えあったり、しますか?」
喜美子はぎゅっと眉間に皺を寄せて写真をじっと見てから「知りません」と言った。見たくないものを無理に見ているように見えた。行斗は、少し悲しそうな顔をしている。
何だ、その顔は。どんな感情だ? 岩山田は考える。行斗の悲しそうな顔に、どんな意味がある?
「息子さんは、どうですか? この人、知ってますか?」
「……いえ、知りません」
行斗は小さな声で言った。明らかに、さっきまでと態度が違っていた。
「わかりました。ありがとうございました」
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