第44話

 1刀、2刀、剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。


 ハーヴェイが剣を振り上げ、オレがその剣を弾く。

「いつも、そうやって1人で抱え込むよな。ハーヴェイ」

「お前が楽天的なだけだ。テイル」

 ハーヴェイの横薙ぎを刀身を盾にして守る。

 そのまま剣を絡め、一時的にハーヴェイの攻撃を止めて懐に潜り込む。ガントレットで腹を殴る。


 お互い鎧も、ナイフの類も持っていない。あれは魔物たちから『生き残るため』の手段だ。

 戦争ならともかく、1対1の、親友同士の戦いで持ち出すのは義に反する。

 『真剣で斬り合っておいてなにを』と言われるかもしれないが、お互い暗黙のうちに決着は剣でつけると決めている。


「ぐっ!」ハーヴェイがよろける。隙ができた。

 ハーヴェイの左肩に向かって剣を振り下ろす。

 ハーヴェイが剣で弾こうとする。しかし、こちらの剣はフェイントだ。剣を振っていた腕を途中でたたんで、肘打ちをハーヴェイの左胸に叩き込んだ。

 が、肘打ちは完全には入らなかった。ハーヴェイが後ろに跳んで威力を打ち消したからだ。

 距離が開く。互いに剣を構えなおす。


「昔は、防御だけだったのに……。強くなったな、テイル」

「気づいただけだ。剣が当たらないのなら他のを当てればいいってな」

 シイナとユイミは静観しているが、気が気でないだろう。すまない、と心の中で謝ることしかできない。


「このままいけばオレが勝つ。……その前に答えろ。ハーヴェイ、お前はどうやって自分の瞳が『そういう』ものだって知った? ユイミやシイナが知らない昔のことをどうして知っている?」

「……魔王と相対した時だ。魔王は僕が『瞳持ち』だと気付いたらしい。そして魔王曰く『罰』として瞳に眠った記憶を無理やり知らされ見せられた」

「? 魔王に知識を無理やり植え付けられたのか?」

「似たようなものかもしれない。だが、僕はそれが事実であると確信している。。……その時に、『瞳』の使い方も知った。僕が発動できなくて、テイル、お前が発動できた理由も」


『青い瞳』の光が強くなる。ハーヴェイが1歩を踏みしめ、距離を詰めてくる。

 速い! 今までとは違う!

 ハーヴェイの放つ袈裟斬りをギリギリのところで躱す。即座に斬り返しの刃が向かってくるのを剣で防ぐ。

「『瞳の力』は、身体能力を跳ね上げる。そして」

 ハーヴェイが刃を引く。突きが飛んできた。辛うじてガントレットで受ける。

「僕の場合は、こういうこともできるようになる」

 剣の切っ先を受け止めたガントレットが、パーツごとに分解されて地面に落ちていく。

「な……!」

「テイル、お前は相手の弱い場所、脆い場所を〈見切る〉ことができるようになるようだが、僕の力は違う。『。当然、一つの塊である刀身などには効果はないが……これが例えば、肩にあたったら、間接ははずれ腱が骨から剥がれる。もしかしたら筋肉にも影響がでるかもしれない」


 ハーヴェイが、そのまま剣を上に持ち上げ、最上段の構えを取る。全力の一撃を見舞うつもりだ。

 オレは反射的に〈十字受け〉の構えを取る。

「僕は臆病だった。ゴブリンに殺されそうになった時気持ちが折れた。クジャクを目にしたとき真っ先に逃げることを考えた。結果、瞳は発動しなかった。テイル、お前は違う。常に立ち向かった。己の、仲間のピンチに、必ず立ち上がった。だから、瞳が開いたんだ。『瞳』を発動する条件は……、己の心を滾らせることだ!」

 一撃が振り下ろされる。オレは先ほどのことを思い出し、少しだけ剣のぶつかり合う位置から柄を離した。剣同士が衝突する。左手が痺れる。骨が軋む。


「だから……、それがどうした」

 歯を食いしばる。そんなことか? 

 そんなことが理由で、殺し合いをしているのか? 

 ふざけるのも大概にしろ。心に炎が灯る。

 今ハーヴェイは言った。

 『瞳』を開く条件は……己の心を滾らせることだ!

「それが、どうしたっていうんだよ!!!」

 右目が熱い。血が滾る。『瞳の力』が全身を満たす。

 刀身を抑えていた左手を離し、両手で剣の柄を握る。

 

 そして、ハーヴェイの剣を全力で弾き返した。

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