第4章 【離別】

第42話

――――

彼は悩んでいた。ずっとずっと。

自分は尋ねた。彼は教えてくれなかった。

もっと仲良くなれば教えてくれるだろう。自分は勝手にそう思った。

結局、彼は悩みを教えてくれなかった。

罪を後回しにするその日まで、ずっと。

――――



『僕が、テイルの瞳を潰すからだ』


 その言葉を聞いてすぐに、いただいた生花もそのままにわたくしはハー様を追いかけました。

 身長が全く違うせいで、歩いているだけのハー様に追い付くだけで結構な時間がかかってしまいました。

「ハー様、何をおっしゃっているのですか!? あなたとテイルさんは昔からの親友でしょう?」

「ああ。そうだ。だから僕がやらなくてはいけない。」

 ハー様は歩みを全く緩めてはくれません。

 ハー様は既に2振りの剣を吊っております。テイルさんと真剣での勝負をするおつもりなのでしょう。

「それに、見ましたでしょう? テイルさんの瞳はほぼ間違いなく『勇者の瞳』! これから待つ戦で旗印となるお方です! 魔王を討つためにも、兵を募るためにもテイルさんの存在は必要不可欠ですわ!」

「大丈夫だ。魔王と戦う目途はついているし、恐らく。だから兵を募る必要もない」

「何をおっしゃっているのか分かりかねます! 何故そんなことをする必要があるのですか!!」

「必要ならあるさ。僕は知って思いだしてしまったから。だから責任を取らないといけないし、テイルを止めなくてはいけない」

「だからきちんと説明を――」

「着いたぞ」


 話している間に宿についてしまったようです。

 くっ……もう話をしている余裕はありません。わたくしは一度距離をとり、ハー様にクロスボウを向けます。

「止まりなさい。これからの行為を許すわけにはいきませんわ。ここで動けなくしてででも貴方を止めます」

 まさか、ようやく出会えた信頼できる仲間に矢を向けることになるとは思いませんでした。

 しかし、今テイルさんを、テイルさんの瞳を失うわけにはいかないのです。

 今のわたくしの立ち位置はハー様の剣では2歩を要する距離。こちらに向かって来ても先に矢を当てることができます。


 幸い、ハー様は立ち止まってくれました。

「ユイミ、君がそういう選択をしてくれてよかった」

 が、

 ハー様はわたくしが、クロスボウを握りしめました。

 すると、あろうことかわたくしのクロスボウは勝手にパーツごとに分解され、地面へと落ちてしまったのです。

「……!!」

「これが、答えのうちの一つだ」

 見ると、

 ハー様のおられました。ゆらゆらと、


        ◇


 ハーヴェイが出て行ってそろそろ30分が経つ。

 その間、オレとシイナはずっとウロウロしたり、考え込んだり、とにかく落ち着きなく過ごしていた。

 本当にハーヴェイを1人で行かせてよかったのか。

 今からでも追いかけた方がいいんじゃないか。

 そんな考えが頭から離れない。


 そうやって意味のない時間を過ごしていると、唐突にドアが開いた。

 そこにいたのは、ハーヴェイとユイミ。

「良かった。ハーヴェ――」「ハーくん――」

「テイル」

 ハーヴェイから強い視線を感じる。向けられるはずのない意思に身が強張る。

 ハーヴェイ、どうしたんだ? なんでオレにそんな目を向ける? 

 それは敵意。今まで、ゴブリンに、クジャクに向けられていた目が、今オレに向けられている。

「テイル。勝負をしよう。僕とお前の、これからの生き様を賭けて」

「ハーヴェイ? 何をいって……」

 ハーヴェイが、持っていた2振りの剣のうちの片方をオレに向けて放ってくる。鞘に収まった真剣だ。

 ユイミに視線を向ける。ユイミは悲しい顔で首を横に振った。

「テイル……」シイナが、不安げな瞳でこちらを見る。

「……分かった。場所は?」

「郊外のほうがいいだろう。正門を出た少し先。すぐに行くか?」

「ああ。ガントレットだけつけさせてくれ。ハーヴェイも必要だろ」

 受け取った剣を腰に固定する。ガントレットを腕につけ、ハーヴェイの分を投げて渡す。

 そしてシイナとユイミと共に、ハーヴェイについていく。


 正直、何が起こってるのかわからない。

 でも、ハーヴェイは何か大きな決心した。そして、そのことをユイミは止められなかった。

 それだけは分かった。

 そして、その決意にオレが大きく関わっていることも。

 ハーヴェイと戦うことを心に決める。真剣で。死ぬ争いをする。

 そこでハーヴェイの決意を聞く。オレなりの結論を出す。そしてハーヴェイを止める。

 ハーヴェイを止められるのは、ユイミでもシイナでもなく、オレだけなんだ。

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