第41話
さらに2日が経った。魔王復活から9日目の朝。
シイナと二人で宿の朝食をとって、部屋で休んでいると、今まで身動き一つなかったハーヴェイに変化があった。
「……う、うう……」
ハーヴェイがうめき声をあげたのだ。すぐに2人でハーヴェイのベッドに近づく。
「ハーヴェイ! 大丈夫か!」
「ハーくん。どうしたの? 安心して。私達はみんな無事だよ?」
ハーヴェイの汗が尋常じゃない。ハーヴェイの上体を起こす。
シイナが濡れタオルをもってきてくれた。それで全身を拭く。
ハーヴェイの荒かった息が少しずつ落ち着いていく。
そして、ハーヴェイが、ようやく、ゆっくりと目を開いた。
「……僕、は……」
「ハーヴェイ! オレだ。テイルだ! わかるか!?」
「テイル、落ち着いて。まくしたてるとハーくんが混乱しちゃう」
「う、しまった。落ち着く」
「……テイルと、シイナか。そうか……。2人とも、僕は大丈夫だ。意識もはっきりしているし、記憶もちゃんとある」
「そうか。よかった……。お前、9日も寝てたんだぞ」
「そうか」
「ユイミも心配してたよ? ハーくんが目を覚ましたって聞いたらとんできちゃうかも」
「ああ、そうだな。じゃあ顔を見せないとな。ユイミは本社か?」
「ついていくぞ。まだ足元がおぼつかないだろ」
「いや、大丈夫だ。1人でいける。ついてくるな」
「……お、おう。わかった」
普段ならこういう時絶対1人ではいかせないが、ハーヴェイから謎の威圧感を感じたオレは、つい了承してしまう。
そうして、ハーヴェイは着替えると外に出ていった。
「テイル……」シイナが不安そうに声をかける。
「ああ……」なんだろう。ハーヴェイが起きたっていうのに、心の重石が取れない。
◇
「ああもう! やってもやっても終わりませんわ!!」
自分の執務室で1人愚痴を吐き散らかします。
魔王が復活してからもう何日も経つというのに、世界は留まることを忘れてしまったかのように毎日が変化の嵐です。
空や海、草木、太陽の色が変わったこと。
魔物が狂暴化したこと。
いくつかの場所で島が沈んだり、逆に浮上していること。
少数ながら魔族と思われる個体の発見情報。
大きいものだけでもこれだけあり、小さいものを上げればやれ冒険者が脱走しただの、国からの支援物資の徴収要請だの。
近いうちには各国首脳が集まり国際会議を開くことにもなっております。王に嫁いだ方の姉が意見を通せるようにこちらもバックアップしなければなりません。
守秘義務なんぞなければシイナさんに手伝って頂きたいくらいですわ!!
「はぁ……」
一旦手を止め、目頭を押さえた後、照明以外なにもない天井を見上げます。
ハー様はまだ起きないのでしょうか……。
ふう、休憩はおしまいです。業務に取り掛からねば、としたタイミングで、折り悪くドアがノックされます。
「どなたですの? 忙しいからノック無しで入ってくるように命じているハズです。早くはいってらっしゃい」
イライラが募っているせいか、言葉もやや乱雑です。乙女失格ですわね。
「そうか。なら入るぞ」
そうして、しばらく聞いてなかった声が聞こえると、その人物が部屋に入ってまいります。
「随分忙しいようだな。ようやく目覚めることができた。迷惑をかけたな」
「ハ、ハー様!?!?」
仕事を急遽切り上げ、執務室に用意してある面談用のテーブルに案内します。
「ハー様、いつごろお目覚めに?」
「ついさっきだ。目覚めた足でここまできた。顔を見せるのが一番だと思ったからな。それと、何も手土産が無いのも恰好がつかないと思って、花束を用意した。トロロアオイという花らしい。受け取ってくれ」
「あらあら、それではありがたく。生花ですか。この後すぐに花瓶に差させていただきますわね」
「ああ、そうしてくれ。……それと、その花は詫びの意味もある。初めて会った日に約束したな。『僕たちを好きに使ってくれ』と。」
ハー様が立ち上がりながらそう告げます。
「ええ。そうでしたわね。ハー様がわたくしを受け入れてくださった瞬間。よく覚えておりますわ♡」
わざと軽口を飛ばしてみますが、ハー様はそれには反応しませんでした。
「その約束を反故にしたい。勝手な申し出ですまないが」
「……理由をお聞きしても?」
ハー様はドアノブに手をかけ、ドアを開きながら言葉を残して、そして去っていきました。
「僕が、テイルの瞳を潰すからだ」
―― 第3章 完 ――
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