第38話

「おー、ここが王城前広場か! 広!」

 露店街とはうってかわって広場にはあまり人はいないみたいだ。

 休憩中の神官さんや、デート中っぽい2人組と、あとは王城前にいる2人の守衛さんくらい。

「ん。それに白い石が丁寧に敷いてあって絨毯みたい。外側の庭木もきれいだね。……庭木でいいのかな?」

「真ん中に像があるな。あれが噂に聞く勇者像か?」

「ええ、遥かなる大昔、魔王を封印したといわれている勇者様の像ですわ。口伝によると勇者像は動かせなかったので魔王城を壊してこの首都と王城を作り上げたそうです。ただ、このような口伝はどこの大陸にも残っていますし、勇者像もどの大陸の首都にありますのでさてどれが本物やら」

「そうなのか。どこの大陸も『自分の国の勇者像が本物です』といいたいわけだな」

「ええ。もしかすると本物は既に崩れてしまって失われているかもしれませんし、そもそも口伝そのものがウソ、ということまであり得ますわね」

「そんなことはどうでもいい! 近くで見ようぜ! 像の周りには人もいないし!」

「ん。それがいい。ハーくん、ユイミ、早くしないとおいてくよ?」

 オレとシイナが我先にと走り出す。

「やれやれ……。僕らも近づいておくか」

「そうですわね。何も起こらないとは思いますが、万一のために」


「へぇー。これが……」

 勇者像は真っ白で、手入れが行き届いているのかピカピカだ。

 思い描いてた剣と盾を掲げるようなポーズではなく、剣を横にして刀身に手を当て、防御をしているような姿勢なのが意外といえば意外だ。

「ま、ユイミの話だと魔王を封印してそのまま石化したらしいから、このポーズなのかな」

「ん、多分そう。これはこれで趣がある」

「どうだ。間近でみた感想は」

「ちなみにデザインは諸国で違うようですわよ。具体的には耳にしておりませんが」


 そんなことを話していると、グラグラ、と地面が揺れる。また地震か? 最近多いな。

 幸い、そんなに大きいものではなく直ぐに収まった。

 が

「! テイル! シイナ! 像がおかしい! 離れろ!」

 ハーヴェイが警告する。見ると、勇者像の全身にヒビが入り、そこから光が漏れだしているのだ。

「うぉあ!? なんだ!! 勇者様復活!?」

「いいから! テイル、離れよう!」

 オレ達の声が聞こえたのか、広場にいる人々がみんな勇者像を見る。

 勇者像のヒビは時間が経つにつれてどんどん増えていき、ついには全身が光で覆われ……そして砕け散った。

 粉々になった像の欠片が粉塵のように中を舞う。

 勇者像があったところに誰かいる……。その人は、膝をついたかと思うと、すぐに立ち上がり、周りを見渡した。

「伝説の勇者様……?」

 そして、粉塵が晴れる。

 そこにいたのは


 黒い朧のようなマントを羽織り

 全身を黒い革のような素材で覆った大男、

 髪は白く、そして長い。

 そしてなにより目立つのは

 閉じた5つのまぶたと、耳の上から生える大きな4本のツノ


 異形。……勇者様じゃ、ない……!?


 閉じたまぶたのうち3つが開く。瞳の色はそれぞれ違う。

「……ここは、何処だ……」異形の人物が口を開く。


 その時、異形の人物の後ろから2本の槍が首に回る。

「そこの異形! 何者だ! どうやって突如現れた! 答えいかんによっては……!」

 守衛さんだ。完全に警戒している。何かあったらすぐに2人でこの異形の人物を拘束する気だろう。

「……ふむ、そうか。我の事が忘れられるほどに、時が経ったのだな……」

「質問に答えろ!」

「よいであろう。知らぬというのなら名を告げるのはやぶさかではない。尤も、この様子では告げてもなしのつぶてだろうが」

 異形の人物の口が笑みに歪む。

「我が名は魔王。〔始まりを創りし者〕デストルド。」


 魔、王……?


 広場にいる誰しもが反応できない。

「やはり信じぬか。つまらぬ。不快な連中よ。仕方ない。我が力の一端をここに示すか」

 そういうと、魔王?は2本の槍など意に介することもなく、てのひらに黒い球体を作り出した。

 そしてそれを地面に、白亜の石畳に落とす。


 瞬間、黒く染まった凄まじい衝撃波が広場全てを打ち砕いた。

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