第36話

 さて、

 今はハーヴェイとユイミが連携の練習をしている。

 ユイミが矢を撃ち終わったタイミングから3秒間ハーヴェイが剣を振り、再びユイミが矢を撃つ流れだ。

 今ハーヴェイは重さに慣れるために重鉄の剣をつかっている。もちろん危険が無いように鞘に入れて紐でしっかりと縛ってある。

 オレはというと、さっきの練習という名の虐待の時にできたアザをシイナに治療してもらっているところだ。

 いやユイミに無理にお願いしたのはオレだけど、思い返すだけであれは虐待だったと思う。

 尤も、ユイミにとってみればオレの股間を狙って一撃で再起不能というか息子を不能というかできたのだから、まだ温情があった方か。

 いずれにしてももう2度とこの特訓は提案しない。


「ハーくんとユイミ、だんだん息が合ってきたね」

 シイナが2人の連携の様子をみて言う。

「そうだな。ハーヴェイもだんだん重さに慣れてきた感じだ」

「ねぇテイル、2人も付き合い始めたのかな?」

 シイナの予想外のセリフに反応が少し遅れる。

「……なんでそう思ったんだ?」

「ん、だってハーくん、最初の頃はユイミのこと露骨に避けてたけど、最近はユイミが2人になりたいっていうと必ず一緒にいくから」

「あー」いやしかしそれは100%無い。ハーヴェイの好みは清楚で愛情を素直に表現してくれる子だ。

 対してユイミは腹黒で表に出す愛情表現も本物か偽物か全く区別がつかない。


 そんな事を思ったりしたが、シイナとしては2人に付き合ってほしいのだろう。

 その言葉をぐっと飲みこんで、

「そうだな。どうなんだろうな」とあいまいな答えを返すだけにしておいた。

「む、テイル、真剣に考えて。私達と違って、ハーくんとユイミは歳の差も身分の差もあるんだよ。アドバイスできることはしてあげないと」

 むしろオレは昨日ハーヴェイにアドバイスしてもらったし、もしハーヴェイにアドバイスするのなら弱みを握られてないかの確認だろう。もちろん口には出さない。


「そうだな。ならユイミもオレ達の宿に泊まってもらうっていうのはどうかな。男女で部屋を分ければ自然とお互いがアドバイスできると思うぞ」

「ん、それいいとおもう。あとでユイミに言ってみよう。仲良くなれれば連携もうまくとれるようになるし、あとで部屋を取り換えるのも簡単だね」

 部屋を取り換えるってことはつまりオレとシイナ、ハーヴェイとユイミに分かれるということか。

 オレとしては大賛成だけど、それをやったが最後、恐らくハーヴェイは初日にユイミに食べられてしまうだろう。

 そして既成事実ができるまで搾り取られその後はご結婚までまっしぐらだ。

 親友をそんな形で見捨てたくはない。

「それはもうちょっと時間が経ってからの方がいいかなぁ……? ほ、ほら、オレ達冒険者なわけじゃん? あんまり冒険に支障が出るようになるのはマズいっていうか……」

 ハーヴェイのことを思って言っているつもりがいつの間にか脳内で自分とシイナの事に置き換わる。顔が赤くなる。

 もちろんシイナの顔も赤くなる。

「ん。テイルエッチ」

 幸い嫌がられてはいない。どうもオレはオレで逃げ道がなさそうだ。いや逃げないけど。


 その後はユイミにオレ達の剣技を知ってもらうために模擬戦を見学してもらい、同時に先輩としてアドバイスをしてもらった。

「ハー様とシイナさんは多少の得意不得意があってもそつなくこなしますが、テイルさんの得意不得意は本当に顕著ですわね」

 攻撃がまともに当たらなくて本当に申し訳ありません。

「しかし、防御の腕前は一級ですし、反撃やゼロ距離なら命中もするので使いようという感じですか。一先ずは先の遺跡のようにわたくしの身を守るような隊列が理想ですかね。ご安心下さい。テイルさんの長所が活きるように全体のバランスを取ってまいりますので」

 そういってユイミは目を細めてニヤァ、と笑う。その笑い怖いんでやめてもらえませんか?


 模擬戦が終わり、昼食の時間だ。

 ユイミは帰ろうとしたが、さっきのシイナとの話のことを伝えたくて残ってもらった。今は共にテーブルを囲んでいる。

「……ふむ、わたくしもこの宿に、ですか。良いアイデアですわね。机と資料棚を置いて、こちらに書類を持ってくるように手配しますか。いえ、それでは守秘義務のためにシイナさんに部屋を出て行ってもらう必要があるので、仕事の時は本社に戻りますかね。一先ずはこちらで寝食を共にする流れで」

「ん。ユイミがきてくれるの、うれしい。仲良くしようね」

 シイナはとてもうれしそうだ。同じ女性で冒険者、好きな人がいるってことで話したいことがたくさんあるんだろう。

 男のオレ達には相談しにくいこともあるだろうし、シイナにとっていいことだらけだ。


 一方その話を聞いて表面上無表情を装っているが心に暗雲を漂わせてるのはハーヴェイだ。

 ハーヴェイにとっては遠いところに置いてあった爆弾をシイナが拾ってきたような心境だろう。

 でも、前回の件でユイミと組むと決めたのだからこのくらいのことは諦めてほしい。

 ついでに自分の将来のことも諦めてくれるとこっちの気が楽になる。


「それでは、201号室と202号室の模様替えが必要ですわね。それに伴って提案なのですが、食事をして十分な休息をとったら、4人で首都を観光致しませんか? 皆さんは首都になにがあるかあまりご存知でないでしょう。わたくしが案内しますので」

「お、それはいいな。まだ武器屋と雑貨屋の場所も知らないから、そのあたり覚えておきたいな」

「雑貨屋って、テイル、お前また菓子を買う気か? 本当に子どもの頃から変わらないな」

「なんだよハーヴェイ。人の趣味にケチをつける気か?」

「そのご様子ですと雑貨屋より菓子屋のほうがよさそうですわね。……ふふ、ダブルデートですわね♡」

「ん、ダブルデート、わくわくするね」


 そうして、ユイミが宿の女将さんといくつかの業務的な話をして休憩を取った後、模様替えの業者と入れ替わりになるようにオレ達は首都に繰り出した。

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