第35話
◇
ユイミとハーヴェイが戻ってきた。
ここからが本格的な練習だ。
まずはユイミとの連携を高めるために、ユイミのクロスボウがどういうものなのかを知っておく。
「以前にも少し触れましたが、わたくしのクロスボウは装着した矢筒を取り換えることで最大4連射撃ができる構造をしております。一度打ち尽くした場合、矢筒を新しいものに取り換えて一度クロスボウを上に振ることで再装填されますわ。その間にかかる時間は大体3、4秒といったところでしょうか」
なるほど。ずっと連射できるって仕組みではないらしい。
今後のためにも一連の流れを実際に全員で見ることにした。
「今回は町中ということで矢尻を弾力性のあるものに変えてあります。が、軌道の安定性などを高めるために弾力があるとはいえかなり硬いので危険なことに変わりはありませんが」
そういって、目標の大木に4連射。おお、本当だ。大木の樹皮が削れている。とんでもない威力だ。
そしてユイミが空になった矢筒をクロスボウからはずし、新しい矢筒に付け替えて上に向けて装填、再度4連射する。この間確かに3秒弱。
「ん、1つの矢筒に4本しか矢が入ってないっていうのは少し不便そう。矢筒、かなり持ち歩いてる?」
シイナがそう尋ねると、
「ええ、その通りですわ。今は模擬戦ということなので普段の半分しか持ってきておりませんが、依頼の時は腰のベルトがそれだけで埋まりますわね」
なるほど。だからユイミのサブウェポンは背負い袋に入っているのか。
今までは準備やら先読みやらでどうにかしてきたわけだ。大変だっただろうな。
ひとまず、ユイミの矢は4発撃ったら一時的に打ち止め、再装填は3秒後か。これは覚えた。
「連携するにあたって僕たちに覚えておいて欲しい動きは何かあるか?」
とハーヴェイ。
「いえ、現状では特には。特訓するにしても後ろに目でもついてないとわからないものですから、すぐに覚えられるものではありません。ひとまずはわたくしの射撃の腕に任せて頂ければ。背中から矢が飛んでくる感覚に身体が馴染めば、わたくしの希望する所作がわかるようになっているはずですわ」
そうだな。確かに身体で覚えるってのは大事だ。と、そこまで話をきいてちょっと閃いた。
「なぁ、ユイミ。ちょっとオレの練習に付き合ってほしいんだけどいいか? 矢を剣で叩き落してみたい」
ユイミが『こいつは何をいっているんだ』という顔をする。
「あのですね。先ほども言いましたが、弾力性のものといってもとても硬いわけですよ。人体に当たれば青アザくらいは」
「そこをなんとか! 男のロマンを叶えるとおもって!」
ユイミの注意を遮って両手を合わせて頼み込む。シイナは面白そうに目を輝かせたがハーヴェイは呆れていた。
というわけで。
「何度も言いますが、目や喉に当たると死ぬ可能性がありますし、指に当たれば骨折もあり得ます。腹部より下しか狙いませんが、十二分に注意してください」
「大丈夫だ! どんとこい!」
ユイミの有効射程距離限界である30mの距離をとって、オレは木剣を構えた。装備はもちろんさっきもらった軽鉄のもの一式。
一応〈見切り〉の習得を目指している者としてこういう『飛んでくる矢を剣で切り落とす』なんてことは一度は体験してみたい。そして願わくば習得したい。
「では撃ちますわよ。どうなっても知りませんからね!」そういってユイミは第1射を撃った。
「まかせておけ!」よし、飛んできた矢を目で捉えた! あとはこの軌道に剣をあわせ……っていってぇー!!!
こっちが剣を動かす間もなく左太ももに思いっきり着弾。あまりの痛みにのたうち回る。
「こうなると思った……」「テイル!? 大丈夫!?」「さて、テイルさんが立ちあがったら2射目行きますわよー」
「くっそ! いいぞどんどん来い!」立ち上がって姿勢を整え、ユイミの射撃を待つ。
そして第2射。さっきと全く同じ軌道を描き全く反応できず全く同じ左太ももにぶち当たる。
先ほど以上の痛みに悶えるオレ。あ、あのアマ、絶対わざと狙いやがった……!!
「さすがに3発も同じ所に当てると骨が折れかねないので、次は別の場所を狙いますわよー」
「く、くっそぉ! どんどん来やがれ!!」半分涙目で返す。
結局、矢筒3セット12発、全く打ち落とせずに身体に全部喰らった。
後半はなんとか剣を振ることだけは出来たからちょっとは進歩あったのかな……? なかった気がする……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます