第34話


        ◇


 僕とユイミはイグドラシル社にやってきた。

 まるで一枚岩を削りだしてそのまま使ったような継ぎ目の見えない壁、床、天井。

 人を20人は入れても十分な広さのエントランスにはちょっとした休憩スペースと受付しかない。

「すごい建築技術だな。ここが本社なのか?」

「ええ。その通りでございます。まずは倉庫に行って武器を見繕ったあと、わたくしの執務室へ行きましょう」

 僕のことを誘った時に察しはついていたが、やはりテイルの事について話があるようだ。しかし、昨日の夜に頼んだことが今日の午前中に分かるとはな。


 そしてユイミの言う通り剣を選び、今は彼女の執務室にいる。

「さて、昨日の話の件ですが、最低限ながら報告があがりましたのでお話いたしますわ」

「ああ、よろしく頼む」

「あのテイルさんの『赤い瞳』ですが、過去に魔王を封印した勇者の瞳と同じもの、ないしはそれに近いものの可能性がございます。セイファール神殿の口伝に『勇者は赤き瞳と青き瞳を携え、魔王との最後の戦いに赴いた』とありました。また、詳細は不明ながら超常の力も使いこなしたそうですわ」

「なるほど。セイファール様の口伝か。ならマルクト様のところにも口伝が何か残っているかもしれないな。それにしても、『青の瞳』か。これもテイルが持っているのか……?」

「それに関しましてはまだ何とも言えませんわね。念のため現在の全冒険者リストを確認しましたが、そのような特徴を持つ方はいらっしゃらないようですわ」

「なるほど。しかし、勇者の瞳とはまた大層なものが出てきたな……」

 なら、僕の感じた不吉な予感はなんだったんだ……? ただの気のせいか?

「もちろん。まだ確定したわけではございません。ハー様の嫌な予感を証明するものが出てくる可能性もありますので、現状では最低限に意識しておく程度がよろしいのではないでしょうか?」

「ああ、そうだな。すまない。気を遣わせた」

「いえいえ♡ ところで、この件について1つ提案があるのです。ご存じかもしれませんがこの首都の王城の前に、かの伝説の勇者の石像があるのですよ」

「なるほど。テイルの瞳が本当に勇者にゆかりのあるものなら、何かが起きるかもしれない、ということか」

「ええ。可能性はごくごくわずかでしょうが、どちらにせよ最早口伝でも失われつつある伝説。由来が想定の通りならダメ元の手段を繰り返すしかないかと。そういうわけで、明日はダブルデートですわね♡」

 デートじゃないだろ、と突っ込みたくなったが耐える。

 僕は彼女を利用している身だ。機嫌を損ねるのはよろしくない。

 尤も、言ったところで気にもかけないだろうが。


 ユイミの準備も含めて一通りの用事が終わったので、模擬戦のためにテイルとシイナと合流した。

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