第3章 【邂逅】
第32話
――――
彼は泣いていた。自分はそれを見つめる事しかできなかった。
彼は1人だった。自分は1人ではなかった。
彼は自分とは違っていた。自分は彼とは違っていた。
でも、彼の見せる顔は常に泣き顔で。
ある日、彼が笑ってくれたらいいのにと思ってしまった。
それが、自分と彼が手を取り合った、最初の日。
――――
「……テイル、お前なにしてるんだ?」
ユイミと夜風に当たって部屋に戻ってきたハーヴェイの第一声がこれだ。
「えっと、その、あの、あー、だな。えっと」
混乱しててよく頭が回らない。
オレの体勢は少し前から全く変わってない。寝てしまったシイナの枕になって固まってただけだ。
ハーヴェイが疲れたように目頭を押さえてため息をつく。
「シイナが眠ってしまって身動きが取れないから助けてほしいんだろ」
そのとおりだ。こくこくと頷くと、ハーヴェイはシイナをゆっくりと横にして、布団をかけた。
「僕が言いたいのはそこじゃないぞ。テイル」
ハーヴェイはオレの向かいのベッドに座ると、腕を組んでうろんな瞳でオレを睨みつけた。
「大方、シイナが迫ってきて固まってたんだろ。付き合ってるの知っているからな」
驚いた。
「え、シイナが言ったの?」
「バカタレ。バレバレだよ。何年一緒にいると思っているだ。僕が言いたいのは、恋人に迫られたくらいで固まってるんじゃない、って事だ。」
「そうはいったって、どうしたらいいかわからねーよ。女の子と付き合うのなんて初めてなんだぞ?」
滅茶苦茶デカいため息つかれた。
「知らない女の子と付き合ってないだろ。シイナと何年一緒にいるんだよお前は」
「……い、いや、ずっと嫌われてると思ってたし……」
「だからテイルもシイナの事が嫌いだった、と?」
「そんなわけあるか! ずっと妹みたいに大切に思ってたぞ!」
「ならそれが答えだ。昔通り、今まで通り、シイナを大切にしてやればいい」
「?????」
「まだわからないならそれでいい。とりあえず覚えておけ。そろそろ寝るぞ」
「お、おう。あー、ハーヴェイ。ここ風呂場がついてるから入ってくれば?」
「お、それはいいな。じゃあ入ってくるか。」
「明かりはどうする?」
「つけといてくれ。まだ慣れてない。最後に消すから」
「わかった。おやすみ」
「ああ、おやすみ。シイナの事大事にしてやれよ。なにかあったら相談に乗るからな」
「ああ、サンキュ。ハーヴェイ」
そうして布団に入った。今日は色々あったな……。
遺跡の疲れが出たのか、オレはすぐに眠ってしまった。
翌日。
うおあああああああ!?
目を覚ますと、目の前にシイナの顔があった。まだ寝ている。
ビ、ビックリした……。昨日ハーヴェイと話してなかったら絶叫してたかもしれない。
まて。自分の身体を確認する。OK。ちゃんと服を着ている。やらかしてない。多分。
多分まだ慣れない部屋だから、寝ぼけてオレのベッドにはいってきてしまったんだろう。
シイナの眠っている顔があどけなくて、小さい頃を思い出す。時々やるお泊り会ではよくみんなで遊び疲れて寝てたものだ。
オレはなんとなくシイナの頭をなでる。シイナの顔がむにゃむにゃとうれしそうに変わる。
ああ、昨日ハーヴェイに言われたことが何となくわかった気がする。
シイナはシイナなんだ。何も変わっちゃいない。これからも一緒にいる。それだけだ。
少しだけ木剣を振ってこよう。
オレはシイナを起こさないようにベッドを出て、宿の庭に向かうのだった。
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