第30話

 首都に帰ると、ユイミが正式な宿を紹介してくれた。

 エントランスをくぐっただけで高い宿だとわかる。清潔だし綺麗だし働いている人が多いし。

 分相応なのでは? とおもってビビっていると、受付の人に「お部屋の数はいくつ用意しましょう?」と尋ねられた。

 これはまさかの2度目のチャンス! 覚悟をきめて男ら「1つで」シイナさぁん……

 そうして部屋の鍵を受け取る。ユイミが部屋番を確認してくる。

「201号室ですわね。では明日、報酬の件などを含めてお尋ねしますわ。それとハー様、もしよろしければこの後共に夜風に当たりませんこと?」

 ユイミが両手を組んでもじもじしながら言う。あれは絶対わざとだな……

 ハーヴェイは断るかと思いきや、ため息をついて同意する。意外だな。

「悪いが、僕の荷物を部屋に運んでおいてくれ」

 そう言葉を残して、ハーヴェイとユイミは夜の街に消えていった。



 仕方なくハーヴェイの荷物を預かり、オレとシイナは部屋についた。

 互いのベットを決め、背負い袋の中身や装備の点検をした。

 その後シイナがオレの肩と額の包帯を取ってくれて、傷口の確認をする。

「ん。これなら問題なさそう。ユイミ、いい軟膏つかってくれたんだね」

 そして、オレはシャワーを浴びて全身の汚れを落とし、今はシイナがシャワーを浴びている。

 そう、この宿なんと個別にシャワーがついているのだ。高級。


 ……で。

 思うに、これってめっちゃいいシーンなんじゃねぇ!?

 いや、ちょっとまて冷静になれ。ハーヴェイはいつ帰ってくるかわからないしキスもまだだし手つないだのは多分道場に入る前だし

男として暴走はいかん絶対。紳士になれオレ。落ち着け。集中。……よし。剣の修行をしていてよかったと改めて思う。

「ごめんテイル。パンツ忘れた」

 シイナがバスタオルを巻いただけの姿で出てきて、自分の背負い袋をあさった後何事もなかったようにシャワーに戻る。

 ……いかん。オレは今日死ぬかも知れん。


        ◇


 今、私はシャワー室にもどってきてパジャマを着ている。

 ふう、すごくドキドキした。バスタオルだけでテイルの前なんてちょっと大胆すぎたかもしれない。

 つい出来心でやっちゃったけど、この後襲われちゃったらどうしよう。

 でもテイルならそんなことしない。でも襲われてほしい気もする。

 ん、でもよくない。まだ付き合ったばかり。そういうのはちゃんと順番を踏んでから。

 誘惑はよくない。反省。

 ハーくんもいつ戻ってくるかわからない。あくまで付き合いを始めたてのピュアな触れ合いにとどめるべき。


 ……今思ったら、受付の人に鍵の数を聞かれたときにいつもの調子で1つと答えたのはダメだったかもしれない。

 なんたる失態。今からでもハーくんとユイミに許可をとって2部屋に、ダメ。それじゃ付き合ってるっていうようなもの。

 そう、まだ時期尚早。せめて自然に手を繋げるようになるまで待つべき。こうやって、指を1本ずつ絡めて恋人繋ぎ……。

 いけない。顔が熱い。このままじゃテイルの前に出れない。落ち着こう。集中。よし。剣を習っていてよかった。

 ちゃんとパジャマの裾を整えて、髪の毛を結んで、少しだけいつもと違うかんじをアピール。

 よし。勝負! 気合を入れてバスルームから出る。テイルが口から魂を漏れさせて逝っていた。

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