第26話

 遺跡にはいってそろそろ5時間。


 ユイミの話ではそろそろ終わりなはずだ。

 今はハーヴェイも回復して『ユイミちゃん』と交代交代で先頭を進んでいる。

 そして曲がり角。ハーヴェイがいつものように壁に張りついて小鏡で曲がり角の向こうを確認する。

 「! みんな、悪い知らせだ。最後の方にこんなどうしようもない罠をもってくるとはな。バジリスクだ。小型のが4匹。それぞれ檻に入れられている。遠いのは10m近く先だ」

 マジかよ。


 バジリスク。幻獣の中では比較的よく見るヤツだ。

 中型や大型のヤツだと言葉を発したり魔法を使ってくるが、小型のはそういうことはない。

 だから脅威ではないかというとそんなことはもちろんなく、遺跡の外で会ったクジャク同様、弱いけどヤバい部類に入る。

 最大の脅威は普段は閉じている額の瞳だ。あれは『石化の魔眼』といわれる特別な瞳で、その瞳で1秒ほど見つめられると全身が石になってしまう。

 そしてその治療法はないわけではないが……


「シイナ、石化って治せるか?」

「ん、ごめん。私はまだ覚えてない……」

 そう、石化を治すのは割と上位の奇跡だ。とてもじゃないがルーキーが使えるものじゃない。

 つまり睨まれたら一発で終わりだ。

「さて、どうするかな……」

「煙幕は1個だけだし、目つぶしも1個しかない。数が足りないね」

「遠いヤツで10mだろ。そんなヤツユイミ以外どうしようもないぞ」

「くそ、隠し扉もなさそうだな。ここを作った魔族のやつ、石化無効の魔法でも使えたのか?」


 というわけで、万策尽きたオレ達はユイミを見る。

「たしかにこれはどうしようもありませんわね。今再びのユイミちゃんグッズの出番でしょうか。」

 そして背負い袋から取り出したのは、カバン……に見えるなにか。

 いままでのやり取りでそれがカバンでないのは分かり切っている。

 ユイミはそれを壁から慎重に、少しずつバジリスクのいる通路にだして、ツマミのようなものをくるっと回す。

 すると、例によってパカッっとカバンのフタが開いて


 ドババババババッ!!!!


 カバンの中から大量の黒い水が滝のように飛び出して、アーチを描くようにバジリスクに殺到する。

 え? なにこの毒水みたいなの。軽く引くくらいの量が出てるんだけど?

「10mまで、となるとこのくらいでしょうかね」

 ツマミをくるくる調整し終えたユイミは、クロスボウ片手に通路に踊り出て、バスバスバスバスッ とクロスボウを4連射した。

「ふう、これで全てのバジリスクの魔眼を打ち抜いたはずです。安全のためにわたくしとテイルさんで確認してついでにトドメをさしてしまいましょう」

 意外にもオレが指名された。ハーヴェイは斥候でシイナはシスターだからか。役割がないって辛い。


 そして通路に出ると、天井以外、床も壁も檻もバジリスクもなにもかもが真っ黒に染まっていた。

 この世の終わり感ある。

「ご安心を。イカ墨ですので人体には無害です」それは先に言ってほしかった。

 バジリスクはユイミが言った通り、全て額を打ち抜かれて見た目死んでるようだった。真っ黒であまり確証が持てないが。

 言われた通り万一のために迅速にバジリスクの喉を切り裂いていく。

 地味に檻の隙間が狭くて難しい。

 この隙間をピンポイントで狙ったのかユイミは……。

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