第25話

 遺跡に入って3時間が経過した。

 今のところは順調に進んでいる。

 その間にハーヴェイは落とし穴、のこぎり歯車、水責めその他無数の罠を見つけては回避してくれた。

 今のところ同じ罠は1度も見ていない。作った魔族がよほど性格が悪かったのか、面白がって作ったのか、全ては謎のままだ。

 しかし、そろそろハーヴェイの疲労が限界に近くなっていた。

「おい、ハーヴェイ、大丈夫か? オレとかわるか?」

 明らかに首を横に振ったり、目頭を押さえる回数が増えている。

「ん、ユイミ、確かこの遺跡調査したっていってた。ハーヴェイの代わりに斥候役、できない?」シイナがユイミを頼る。

「残念ですが」ユイミが申し訳なさそうに首をふる。なんで?

「シイナ、ユイミには無理なんだ。ユイミは既に資料でこの遺跡の罠の位置を知っている。つまり、思い込みがあるってことだ。万一資料に載っていない罠があったら誰かが死ぬ」

 そういうことか。思い込みは厄介だ。大事な事の確認を疎かにする。

 オレ達もこの間のゴブリン退治で痛い目を見たばかりだ。

「しかし、ハー様の疲労も限界ですわね。ここで未来の夫を失うわけにはいきません。奥の手を使いましょうか。ハー様はしばし後ろで休んでいてくださいませ」

 そういってユイミが先頭に立ち、背負い袋を地面に下ろす。

 ん? あの背負い袋、なんだか大きくないか? 背の小さなユイミが持っていたからそんなもんかなって思っていたけど、オレ達の1.5倍はあるぞ。

「さてさて♡」ユイミは背負い袋の中身から何か手のひら大のものを取り出す。なんだあれ? 4輪付きの箱?

 ユイミは謎の箱を床において「えい♡」と床に押し付けるように力を込める。すると……


 パカッ ムクムクムク


 箱のフタが開いて、風船みたいなのが膨らんでいく。

 そして膨らみきったその風船は、なんとなく人型をしていて、デフォルメされたユイミの姿が描かれていた。

『……』オレとシイナが状況に置いてけぼりになる。

 すると突然前方に動き出すユイミ風船。速度は人間が歩くそれより少し早い程度だ。

「これはわたくしどもが冒険者向けの商品として開発した、その名も『走れユイミちゃん』でございます」唐突にユイミが自社製品の説明をしだす。

「『走れユイミちゃん』は風船を膨らませて人間大の形状をとった後に、自走を開始いたします。これによって」

 そうユイミが解説している間に、それなりの距離を走った『走れユイミちゃん』が上下左右から飛び出した無数の槍によってズタズタに串刺しにされる。

「このように前方にある罠を発見できる、という商品ですわ♡」

 罠が起動し終わり、ズタズタのボロボロになった『走れユイミちゃん』が地面に落ちる。

 ……。

「さらに、この『走れユイミちゃん』は地面に押し付ける際の力の加減で、

『直進モード』『旋回モード』『ジャンプモード』の3種の動きが可能で、戦闘の際にはデコイとしても活躍いたしますの。なかなかの逸品でしょう?」


「……いいんじゃないか?」「……ん、いいとおもう」「うん、これはなかなかいいな。楽ができそうだ」

 顔がひきつりつつ、三者三様に一応の肯定をユイミに返す。ハーヴェイが妙にうれしそうだが。

 なるほど、ユイミがソロで活動できていたのはこれのお陰か。

「ではどんどん行きましょう。さぁ『走れユイミちゃん』、ハー様の疲労を癒すためにがんばるのですよー♡」


 こうして、オレ達は十数体の『仲間に割とよく似た人形』が罠にかかっては再起不能になるのを延々見せつけられる羽目になったのだった……。

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