第23話

 みんなが奇襲に適した場所に移動して30秒が経った。


「うおおおおお!!」オレは草むらから飛び出し、わざと大声を出してクジャクに迫る。

 剣を振るが普通に避けられてしまう。

 羽毛があるからと力を込めたらこれだ。〈チョイ当て〉の方が良かったかも。

 とにかくオレの役目はクジャクからの怒りを買う事。そのためにもせめて1、2回は攻撃を当てたい所なんだが。

 そう思ってるうちにクジャクが飾り羽を広げ、その紋様が明滅する。

 ヤバい! 魔法が来る!

 オレは1歩だけ後ろに下がってどんな魔法が飛んできてもいいように構える。

 クジャクの眼前に炎の球が形成され、それがオレめがけて飛んでくる! これが〈火球ファイアボール〉か!

 運がいい! オレは剣を腰だめに構えて自ら火球に突っ込む。〈水の衣アクアヴェール〉、頼んだぞ!

 奇跡のお陰で無事に炎を突破したオレは、そのままの勢いで身体ごとクジャクにぶつかっていく! 

 ……が、空中に浮いた石に突きが阻まれた。くそ、〈石盾ストーンガード〉ってやつか!

 しかし、オレの突きが当たってないのにクジャクは悲鳴を上げて苦しみだす。

 見るとクジャクの横腹に矢が刺さっていた。ユイミ、いいタイミング! さらに立て続けに矢がクジャクの身体に突き刺さっていく。

 このチャンスを無駄にはしない。オレは剣を投げ捨てると右腕をクジャクの首に回し、左手のナイフで胸元を何度も突き刺す!

 たまらず首を回して引き離しにかかるクジャク。だけどそのくらいじゃ離れないぞ!

 視界の端で魔法が発動する気配。だがオレはクジャクから離れない。このままオレを狙えクジャク!

 全身に雷で撃たれたような衝撃。多分〈飛ぶ雷撃ライトニングレイザー〉ってやつだ。

 身体が痺れたように痛むが、その甲斐はあった。

 クジャクの真後ろからシイナが剣を振り、飾り羽のほとんどを切り飛ばしてくれた。クジャクがシイナの方を見る。

 お前はオレを見ていろ! クジャクに頭突きを喰らわせる。嘴で額が切れた感覚。だがこの程度、前にゴブリンに殴られた時より断然マシだ。

 まだ魔法は発動できるらしい。残りの飾り羽が光る。〈氷槍アイスランサー〉がオレの左肩に突き刺さる。クソ痛てぇ!

 だけど、これで終わりだ。

 なにかがクジャクの胴体を横から両断したからだ。

 見ると、誰もいないはずの空間が揺れて、剣を振り下ろしたハーヴェイが現れた。

 二つに分かれたクジャクの身体が地面に倒れる。青い血がじわりと地面に広がる。

 ふうー。よかった。倒せた!!


 オレとシイナが地面に座り、ユイミが草むらから出てくる。

「テイル、大丈夫だったか?」剣から血をぬぐったハーヴェイが聞いてくる。

「大丈夫だ。肩以外は大きな怪我はしてないぞ。多分」

 しかし、全身が軽く痺れているし、緊張でヘトヘトだ。

「それにしても、まさかハーヴェイが透明になってるなんてな、シイナのお陰か?」

「ん、〈陽炎の揺らぎミラージュ〉っていう奇跡。1日1回しか使えないけど。がんばって覚えてよかった」

 そういうシイナの顔が青い。しまった。奇跡を使いすぎたか。

 どうも奇跡というのは短い間ににあまり纏めて使ってはいけないものらしい。

 村でもこうやって具合の悪くなるシイナをたまに見た。

「ユイミ、すまないが少し休憩したい。いつもなら30分くらいで良くなるから」

「構いませんよ。シイナさんもですがテイルさんもヘトヘトでしょう。しばらくはわたくしとハー様で警戒しますから、しっかりお休みになってください」

「助かる」「ん、少し横になるね……」そういって、オレとシイナはそのまま地面に横になった。


 そうして、短い休憩をとって起き上がる。

 肩と額の傷は……あれ、包帯が巻かれてる。ハーヴェイか?

「ユイミだ。傷にもなにか塗ってくれてたぞ」おや違った。ユイミに礼を言う。

「ふふ、お代は後でツケておきますわ♡」笑顔が怖い。冗談だよね?

「ていうか、オレ寝てたか?」「完全に寝てましたわよ」「シイナもぐっすりだな。そろそろ起こしてやれ」

 そういわれて隣のシイナを起こす。

「ん、んう……あれ、私寝てた……?」

 うん、顔色が良くなってる。

 2人には迷惑をかけたが、お陰でしっかりと休めた。

 

 この後は遺跡だ。がんばろう。

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