第22話
そして翌日、遺跡に行く日になった。
集合場所に集まり、4人で馬車に乗る。昨日聞いた通り2時間くらいで遺跡のある森に着いた。
ユイミが御者と帰り時間の打ち合わせをして、森に入る。まだ午前の7時。森には朝露が目立つ。
今の隊列は前からハーヴェイ、シイナ、ユイミ、オレ。
オレが最後尾に着いたのはユイミの警護だ。
ユイミは格上でソロ活動していたので心配ないと思うが、主要武器がクロスボウなので念のためだ。
最前列はオレ達のパーティの斥候役、ハーヴェイ。
手先の器用さではオレに、耳の良さならシイナに軍配が上がるが、ハーヴェイは何より慎重だ。安心して先頭を任せることが出来る。
「(さて、首都の一件で討伐がほとんどされてないってわかってしまったからな。いつもより慎重に行こうと思うが、いいか?)」
「(そのことですが、できるだけ時間を短くしたかった都合で、事前に討伐班に森を回ってもらいましたわ。もちろん慎重に動いていただいた方がありがたいですが、戦闘はすくなくなるかと)」
「(それは助かる。長丁場だ。確実にいこう)」
戦闘が多くなればそれだけ時間がかかるし、疲れがたまってパフォーマンスも下がる。
本番はあくまで遺跡なんだ。事前に森に人手を入れて魔物たちを間引いてくれたのは助かる。
ハーヴェイはその情報を元に、できるだけ人が歩いた跡を頼りに進んでいく。特に問題なく、順調に森を進んでいたが……
遺跡の入り口付近になって、とんでもない問題がおきた。
「(! まずい。みんな隠れろ。息を殺せ)」ハーヴェイが何かに気づいて息を殺せと言ってきた。表情がいつもより真剣だ。
オレ達は自分の目で確認するのをやめて、静かにハーヴェイの指示に従う。
「(聞け。クジャクだ。こっちに向かってくる。まだ遠目だから確定じゃないが、オスの可能性が高い。魔法の餌食になるぞ)」
『(!)』全員が危機感を共有した。
魔法、それは人間には行使できない力。
とんでもなく大昔に勇者が討伐した魔王と、その眷属である魔族が使った力で、それらが滅んだあともこの世界に残り続けているもの。
今となっては強力な魔法はそもそも存在自体が珍しい幻獣や魔獣、竜種くらいしか使ってこないが、弱いものならゴブリンでも使ってくるやつがたまにいるし、なんだったらカラスや猫といった賢い動物にも使う個体がいる。
クジャクはその『賢い動物』の最たる例だ。
メスは魔法を使わないが、オスは低位とはいえ7元素全ての魔法を使ってくる、動物界のスーパーエリートだ。
もちろんあくまで動物なので、肉体的な意味ではそれほど強くない。それどころか羽に余計な装飾を抱えていて弱いまである。
だが、魔法を7元素全て使ってくるというのはそれを差し引いてもヤバすぎる。
問題は、人間が魔法を使えないために魔法そのものが体系化されてないことだ。
つまり、どんな冒険者でも初見の魔法が絶対ある。
ルーキーのオレ達なんて魔法は1度も見たことがない。師匠が座学で教えてもらったものを知っているだけだ。
そんな1元素習得されてるだけでもヤバい魔法をクジャクは7元素使ってくる。
初見の攻撃、防御が最低7種類あるのだ。10回死んでもおつりがくる。
「(ど、どうするの?)」シイナがパニックになる。
「(落ち着け、シイナ。どうもこうも逃げる以外に方法がない。どうにかしてここを離れるぞ)」
ハーヴェイが判断を下す。だけど、
「(いや、ここで戦おう)」オレの言葉に、全員が驚く。
「(ここで逃げるのに成功しても、遺跡を出る時に出会ったら最悪すぎる。倒そう。オレが魔法を全部喰らう覚悟でヤツを引き付けるから、3人でどうにか奇襲して倒してくれ)」
「(……、わかった。テイル、死ぬなよ。シイナとユイミもそれでいいか?)」
1秒かけてハーヴェイが結論を出す。
「(ん。テイルのいうことも一理ある。テイル、がんばって)」
「(わかりましたわ。こんなところにクジャクがいては首都も危険です。全力でサポート致します)」
「(シイナ、炎よけになる奇跡ってあるか? さすがに燃やされたら生きてられないからな)」
オレの今の装備はほとんどが布か木だ。炎魔法や熱を発する光魔法は1発で命に関わる。
「(ん、〈
「(十分すぎるな。オレには〈
「(ん、わかった)」シイナが神に祈る。
「(今から30秒後に突っ込む。長くは持たないと思うから早めに倒してくれ)」
3人がうなづいて、それぞれ奇襲のかけやすい位置に移動する。
そして30秒が経った。
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