第21話
お嬢様じゃん!!!!!
今日何度目かもわからなくなった絶叫をかみ殺す。勘弁してほしい。
でも話はまだ終わってないのだ。耐えるしかない。
「ああ、テイル、もう我慢しないでいいぞ。もう重要なことはあらかた話し終わったからな」
「だったら早くそういえよていうか遺跡の事結局なんも話してないだろどこが終わってんだよ!」
ずっと叫びたかった気持ちが溢れすぎて息継ぎ無しでまくしたてる。
「テイル、うるさい。静かにして」
今度はシイナに怒られた。泣きたい。
「でも、イグドラシル商会のお嬢様がなんで冒険者なんてやっているんだ? 危ないだろ?」
ひとまず冷静になって、疑問に思っていたことをユイミに尋ねる。
重要なことは終わったっていってたから、気軽に話をしてもいいはず。
「それは先ほどおっしゃった通りただの趣味ですわね。後継ぎとしては上に二人も姉がいますもの。わたくし、結構気楽な身なのですよ」
他の商会を潰そうとしてたり冒険者をスカウトしたりは全然気楽に聞こえないんですがそれは。
「それに冒険者向けの商品の実地テストも兼ねております。今のイグドラシル商会は大量の冒険者を雇い入れたい身なので、これも重要な仕事なのですよ」
「それが遺跡の依頼に繋がる、訳はないな。遺跡は僕らの実力テストあたりか?」
ハーヴェイがようやく本題に入ってくれる。オレじゃそこまでもっていけないから本当に助かる。
「残念ながら違いますわハー様♡ もちろんそういう面が全くないとは言いませんが、主題はあくまで遺跡の最奥に眠る財宝を手に入れるためですのよ」
小難しい話からうって変わって、凄く冒険者らしくてわかりやすい話になってきた。
「わたくしどもとしては他の商会を出し抜いて成長したいので、過去の遺物である遺跡の中の財宝は喉から手が出るほど欲しいのです。それに今、他の商会は素材を集めるのに必死で遺跡の財宝を強く意識しておりません。こういう時になるべく独占しておきたいというのが商人ですわ」
ハーヴェイが後を引き継ぐ。
「しかし腕が良く信頼を置ける冒険者は別の所に送ったばかりで手札がない。仕方なく宿で冒険者を募ってみても予想通りとはいえ集まらない。そこに現れたのが僕たちか」
そうですわん♡ とユイミが同意する。
「んー。万が一宿で冒険者が集まってたらどうしてたの?」
「そこはもちろん遺跡の中でその実力と適正を見させていただいて、不適切と判断したらそのまま遺跡の中に残って頂こうかと」
この子、いまさらりと死んでもらうっていったぞ。こっわ。
「ああ、もちろん未来のお婿様であるハー様とそのご友人たちにそのような真似は致しませんので、ご安心ください♡」
「よかったなハー様。おじさんとおばさんにいい報告できるぞ」
「よかったねハー様。玉の輿で将来安泰」
「ハー様いうな。あとお婿様じゃない」
「それで、肝心の遺跡の場所ですが」ユイミは地図を取り出して1点を指さす。
「こちら、首都から北東の森の中にございます。馬車で2時間といったところでしょうか」
「意外と近いんだな。よく今まで見つからなかったもんだ」
「正確には既に発見済みの遺跡の中に隠れた入口を発見したのですよ。調査の結果、最奥までそれなりの距離があるようでして」
「その調査ってどうやったんだ? 遺跡にもぐってないんだろ?」バカですいません。
「ふふ、いかに過去のものとはいえ、遺跡は立派な建築物。強度などを計算するために図面は欠かせませんわ。そして便利ですが燃えてなくなってしまう紙はわたくしどもが開発したもの。遺跡が造られた当時にはございません。つ・ま・り……」
「消滅の心配が少ない石板あたりに図面が残っている。それを商会の力で探り当てたのか」
ハーヴェイが続けると、ユイミは正解ですわん♡ とウインクする。
「手順としては石板をみつけてそれに適合する遺跡を探したところ、既に見つかっている遺跡に未踏部分がある事がわかった、という流れですわね」
他にご質問はありませんか? と続けるユイミにオレ達は首を横に振ることで返す。
「それでは続きを。計算ではこの遺跡の踏破には5時間ほどかかる見込みです。森を抜ける時間を2時間と考慮して往復で14時間。出発は午前5時となりますが、明日出発で皆さん問題ありませんか?」
「問題ない」ハーヴェイが代表して答える。
今は大体午後3時だから、いくら朝が早いといっても十分準備できるだろう。
「結構なことです。では皆さん、本日はこのカフェの奥の寝室を宿としてご利用ください。正式な宿については後日案内いたします。何か必要なものがあればコンシェルジュになんなりと申してくださいな」
まだ冒険者見習いの立場でコンシェルジュ付きの宿に泊まるだって……!?
首都に着たのも馬車で、遺跡に行くにも馬車だし、オレ達恵まれてない?
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