第18話

        ◇


 テイルが、私とハーヴェイを残して宿を出ていってしまった。


「だっはっはっはっは!!! ふば、ふざけるなぁ!! だってよ!! つい殴りかかってくるのかと思ったら、ひ、に、逃げやがった!! 逃げやがったぞあいつ!!」

「な、なさけねぇ~~~。な、涙がでてくる。わ、笑わせてくれるねぇ!!!」

「で、残ったキミタチはどうするのかな? かな?」

 苛つかせてくれる輩が、ピーチクパーチクとニンゲンの言葉をさえずっている。

「ハーくん」

「手は出すなよシイナ。テイルの頑張りが無駄になる。こうなったら、僕たちのやることはひとつだ」

「ん。そうだね」

 そうして、私とハーくんも、首からプレートを外して、

「折角登録していただいたのにすいませんが、今回は縁がなかったということで」

 せめてもの笑みを受付のお姉さんに残して、宿の外に出た。


        ◇


 やっちまった。やっちまった。やっちまった。

 宿の扉を勢いよく閉めてすぐに、猛烈な自己嫌悪に襲われてその場にしゃがみ込む。

 折角冒険者になったってのに、自分から雰囲気ぶち壊して辞めてきてしまった。しかもハーヴェイとシイナを残して。

 あんなどうでもいい罵倒、笑いながら聞き流して依頼を受けときゃよかったんだ。

 でも、あの時の町長さんや、エイミさん、街のみんなの顔を思い浮かべると、どうしても我慢が出来なかった。

 これからどうしよう。2人が出てくるまでここで待とうか。出てきてくれるかな?

 それとも、村へ帰ろうか。街に戻るのもいいかもしれない。あそこならオレを必要としてくれるし。

 そんなことを考えているといきなり尻を蹴られた。

 振り返ると、そこにはシイナとハーヴェイがいて、

「テイル、ナイスファイト」

「僕たちも辞めてきた。テイルがいないんだったらいる意味がないからな。先輩どもも気に食わないし」

 そんな言葉をかけてくれて、オレは思わず2人に抱きついて泣いてしまった。


「でも、辞めてきてどうするんだよ」

「そいつは一番最初に辞めたテイルにいわれたくはないな」

「ん、こうなったのは全部テイルのせい」

 オレが泣き止んだ途端にオレのせいにしやがってこいつら。さっきはやさしい言葉かけてくれたってのに。

 だけど、口から笑いが漏れるのを止められない。

「でも、首都の他の宿にいっても状況は同じだろうな。気分が悪くなるだけだ」

「ん、いっそ首都の商会に片っ端から火をつける? よく燃えてくれるかも」

「それは最後の手段にしろよ。つーか悪いのは正義感の欠片もないクソな冒険者たちだ。オレは宿を燃やすのに一票いれるな」

「ん、ならそうしよう。決行は夜の方がいいと思う」

「はい物騒な話はそこまで。僕たちにはまだ手が残されているだろう? 僕としては御免こうむりたい方法だけど」

 全員の口から笑いが漏れる。ハーヴェイがいいっていってくれたならいいか。

「いいのか? 死ぬかもしれないぞ?」

「心が死ぬよりいいさ。それに決めたじゃないか。『3人で勇者になる』って」

「ん、4人に増えるけどね。女の子の冒険者友達、うれしい」


 そういって、オレ達は向かいのカフェの鈴を鳴らし、中に入るのだった。

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