第17話

 受付嬢に登録書を提出して待つことしばし。


 オレ達のプレートが完成して、それぞれが首にかける。

 これでオレ達も正式な冒険者だ。ちょっと感動。

 依頼の受け方や冒険者の注意点、宿代がある程度ツケに出来る事などを聞き、

「宿のお部屋の鍵はいくつ必要でしょうか?」と言われた。

 いつもの調子で1つ、と答えそうになって危うく踏みとどまる。

 待て。オレ達はこれから冒険者だ。稼げるようになる。

 これは2部屋借りて男女で別れた方がいいんじゃないか?

 いや、だれがそんな愚行を犯すものか。オレとシイナはもはや恋人同士(?)なのだから、オレとシイナが同室。ハーヴェイは個室だ。

 これならいつでもシイナとあんなことやこんなことが

 とか大真面目に考えていたら、普通にシイナが「1つでいい」と答えてしまった。シィナぁ……。


「よし、それじゃ手ごろな依頼があるか確認しておくか。ま、出発は明日になるだろうけど」

 ハーヴェイがそういって、3人でホワイトプレート専用の掲示板へと近づく。

「んー。猫探し」「これはドブさらいか」「出来れば実戦をつめるやつの方がいいよなー」

「お、あるじゃないか。『北の森の野犬退治』」「オレも見つけた。『南西の沼のワニ討伐』」「ん、『首都廃屋のコックローチ殲滅』」

「ゴブリンの依頼がないな」「ん。実はゴブリンって結構強い?」「いや弱いから人気なのかも」

「まぁ、とりあえずこの3つから選ぶか。とりあえずワニ退治はやめておこう。足場が不安定なのとナイフを無くす恐れがある」

「金は大事だからなー。コックローチは今日行けるのはおいしいけど、殲滅って出来るのか?」

「んー、戦鎚使いなら出来る、かも? 私達にはムリ」

「というわけで連続で森になるが、野犬退治にしておくか」

 2人でこくりとうなづき、ハーヴェイが依頼書を受付に提出しようとしたとき、2階のテラス席から声が聞こえた。


「だぁーはっはっはっはっは! あのユイミに騙されない賢い新人がきたかと思ったら、やっぱりただの馬鹿でやんの!」

「ひっひっひ、坊ちゃんたち。悪いことは言わないから、明日の朝また来るか、そうでなかったらドブさらいでもしときな~」

 顔を上げて声の主を見る。ここの宿の冒険者みたいだ。首にブロンズやシルバーのプレートが見える。

「野犬退治のどこがいけないんですか? 依頼額だって適正です」むっときてつい言い返してしまう。

 そう、野犬退治の報酬は2000G。さっきユイミの依頼一覧を見たから金額が適正なのは間違いない。すると

「ぶひゃひゃひゃひゃ!!! て、適正。野犬退治が適正だってよ!!」

 全員が大笑いだ。ますます腹が立つ。

「ねーちゃーん。オレの受けた依頼一覧みせてあげてよー」

 そういうと、受付の人はため息をつきながら彼の受注依頼一覧をオレ達に見せてくれた。


『丘のベリー採取』ホワイト 8000G

『材木収集』ホワイト 6000G

『鶏肉調達』ホワイト 10000G

 etcetc……


「はぁぁぁぁぁぁ!?」くっそたけぇ! しかもなんだよこの簡単そうな依頼は!? 

 ブロンズの方も……報酬が上がっただけで似たような依頼ばっか!?

「申し訳ありませんが、虚偽はありません」申し訳なさそうに受付嬢。

「ひっひっひ……。あー。笑った。いいかい坊ちゃん嬢ちゃん。適正な、オイシイ依頼ってのはこういうのを指すんだ。わかった?」

「今残ってんのは人気のない、てか誰もやらないクソ依頼なんだよ。そんなもの取って何になる?」

 2階のクソ共の言葉にイライラしつつ、オレは受注依頼一覧を穴が空くように見続ける。なんだ? なんでこんなことになっている??

 そして気づく。この依頼主、名前こそ違うが全部商会系だ。

 きっと首都の商会が商品の素材欲しさに依頼を投げているんだろう。

 それに対して、ハーヴェイが受付に提出しようとした依頼やワニ退治は両方村から出ている。コックローチは首都の互助会だ。

 つまり……


「そういうことか。隣街で引っかかっていた事が全部わかったよ」

 ハーヴェイが言葉を発する。

「もうシイナもテイルもわかってると思うが、敢えて言おう。村や街が危険になっても、冒険者は助けに来てくれない。それどころか、自分達の足元である首都であっても。なぜなら、危険で儲けがないから。同じ依頼ならより簡単でより高額な収集系の依頼にみんな飛びついているんだ」

 ちょくちょくうちの村から事件の解決に向かっていた大人たち。

 ゴブリンを倒して、遺髪を持ち帰った時の街のみんなの喜びよう。

 予想に反して5匹、いや6匹もいたゴブリン。

 そして、町長さんがかけてくれた『君たちはこの街の英雄だ』『冒険者になっても多くの人を救ってほしい』の、本当の意味。


 冒険者は助けないんだ。村や街が危険になっても、その身可愛さに。


 ふざけるな。

「ん~? もしかしてキミたち、南西の村の子たち? どぉ~りで。困るんだよね~。毎回毎回、冒険者は人を助けるためにある、とか、周りで人が死んでいるのになんで助けない? とかさー。」

「そんなことになんでオレ達が命を賭けなくちゃいけないんだって話だ。自分が死にそうなら自分で守れ。そのか弱い命をよ!」


「ふざけるなぁ!!!!」怒りが爆発した。


 首にかかったプレートの紐を引きちぎり、預かった鍵とともにカウンターに置く。そしてその足で、そのまま宿を後にした。

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