第16話
そして、登録をする前になんだかやたら目立ってしまったが。
受付嬢に話を通して、今は3人仲良く冒険者登録書を書いている真っ最中。
「で、ハー様、あの子の依頼、どうするの?」
「そうだなハー様。一緒に行ってやらないと多分あの子泣くぞ」
二人でハーヴェイをからかう。
「ハー様いうな。行くわけないだろう。あの子遺跡の依頼っていってたんだぞ。僕たちじゃどうやっても手に余る」
「だよなー」
遺跡。それはずっとずっと昔、まだ魔王が世界を席巻していた時代の遺物。
中にはとんでもないお宝が眠っているといわれているが、中は極悪なトラップやモンスターの巣窟だと聞いている。
難易度のほどはうちの師匠が『十分に実力がつくまで手を出すな』というほど。遺跡についての訓練もしたことがない。
ゴブリンだって訓練課程に組み込む師匠が『行くな』と言った上に訓練すら禁じる場所。
それが遺跡だ。高い確率で死ぬ事は想像に難くない。
「でも、あの子とはなるべくお近づきになっておいたほうが、いい」
とシイナさん。そこなんだよなー。
あの子の武器はクロスボウ。つまりは遠距離攻撃の使い手だ。
オレ達の武器は全員剣で、遠距離攻撃が出来ない。
遠距離攻撃が出来る仲間がいるといないとでは安心感が全然違うのは前回のゴブリンで学習した。
「それにブロンズなのもいいよな。色々教えてもらえる」
オレの言葉にハーヴェイが嫌な顔をするが、事実だ。
オレ達には経験が足りなさすぎる。
上の階級の冒険者の経験に基づくアドバイスはまさに金言といっていい。
もっというと、そのブロンズ級が誘っている遺跡なのだから、危険は少ないとも見れる。
自分が死ぬような場所に初心者を連れて突っ込む馬鹿はいない。
「待て待て待て。あの子、人が集まらなかったっていってただろ? つまり今はソロってことだ。ブロンズ冒険者がソロ。想像してみろ」
「あー」
それはつまり、その前の冒険で味方が全滅したか、周りから嫌われててパーティが組めない、ということか。それは確かに良くない。
「それに、僕は見た。あの子が一瞬、口をニヤァ、と広げて、ネズミでも食べる猫のような顔をしたのを。あの子、相当な腹黒だぞ」
「ハーヴェイが女の子にそこまでいうのは珍しいな……」それは俺も見た。見間違いじゃなかったんだな。
「そのへんを確かめるいい方法がある」
冒険者登録書を書き終わったシイナが言う。
「ん、おねえさん、さっきのユイミって子の達成依頼一覧って見せてもらえないかな?」
そういうと、公開情報ですから大丈夫ですよ、と受付嬢が4枚の紙を渡してくれる。えーと。なになに……
『ドブさらい』受注:ユイミ・シーザー ホワイト 200G 〆
『東高原の狼討伐』受注:ユイミ・シーザー ホワイト 2000G 〆
『北西山のハーピィ討伐』受注:ユイミ・シーザー ホワイト 4000G 〆
『首都下水道のグール討伐』受注:ユイミ・シーザー ホワイト→ブロンズ 2000G 〆
「ああああの子、全部ソロでクリアしてる! しかも最初はともかくそれ以外は全部討伐依頼だぞ!? なにこれ!?」
めっちゃ実力高くない??
そりゃクロスボウの不向きな森とかでの依頼は受けてないけど、群れを作る上に足の速い狼をクロスボウで仕留めた上、ハーピィを普通に撃ち落としたり、光の無い場所でグールを射殺した事になる。
で、普通3~4人で達成するものを全部ソロクリアしてるから、たった4回でブロンズになってる。魔神かなにかかな?
「でも、これであの子がこの宿で嫌われている、良く見ても浮いている存在だってのが明らかになったな」とハーヴェイ。
……たしかに、そういうことになるのか。
「触らない方が吉、かぁ」「ちょっと残念。女の子の冒険者友達出来ると思ったのに」
オレとシイナも諦めモードだ。
「見なかったことにして、普通の依頼を受けよう」
そういって、冒険者登録書を受付に提出するハーヴェイ。オレとシイナも続いた。
「……はい、受理しました。少々お待ちください。皆さんのプレートを用意しますので」
ん? オレ達の登録書を見た時、受付の人ちょっと顔色変わらなかった?
その受付嬢はプレート作成のため背中を向けているのでもう顔色は分からない。
見間違いか? それともまだなにかあるのか?
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