第15話
そしてついに、首都に向かう日がきた。
ハーヴェイの調子は万全。昨日いいところがなかったせいか普段より張り切っている。
部屋に忘れ物がないかしっかり確認。3泊もさせてくれた宿屋の女将さんに礼をいう。
そうして馬車を待たせてある街の郊外にいくと、街の人が総出で出迎えてくれた。
そこには町長とエイミさんの姿もある。
エイミさんが小包みを渡してくれる。
「貴方達のお陰で、私の命は救われました。ありがとう。これは、街からの最後の感謝の印。馬車の中で食べてね。」
ここまでしてくれるなんて。本当にうれしい。頑張った甲斐があった。
「ありがとうございます。エイミさんも、町長も、村の皆さんもどうかお元気で。近くにきたら顔をみせますので!」
そうして、3人で馬車に乗り込む。
「がんばれよー!」「冒険者になっても、いろんな人をたすけてやってくれよなー!」「うちの薬草、とっとと売るかポーションにしろよー!」
馬車が出発しても元気な街の人が一緒に走ってくれて色々な声をかけてくれる。
「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございましたー!!!」
こうして、もらいすぎなくらいに色々なものをもらったオレ達の初依頼は、幕を閉じたのだった。
午後を少しまわったあたりで、首都についた。
馬車をおりて御者の人にお礼を言って、門の外から首都を見る。大きいな……。
「これが城壁ってやつか。圧巻だな」
ハーヴェイも首を逸らして上の方を見ながら言う。
「なぁ、早く首都に入ろうぜ!」「ん。大賛成」
もう少しで正式に冒険者になれると思うとウキウキして仕方ない。シイナも心なしか楽しそうだ。
オレとシイナが走って、それをハーヴェイが追いかけてくるように、オレ達は首都へと入った。
「どぉーして人が集まってないんですかぁー!」
バァン! 両手で木を叩いたような大きな音が響き渡る。
オレ達は首都の入り口から一番近い冒険者の宿に入ったところだ。いきなりなんだ……?
見ると、シイナより小柄な少女が、受付と思われるカウンターをバンバン叩きながら受付嬢に抗議している。
「依頼を出してもう10日ですよ! 1人も集まらないってどういうことですかー!!」バンバンバン
「そうおっしゃられましても、こちらとしては残念ながら希望する冒険者がいなかったとしか……」
少女は背中しか見えないので表情がうかがえないが、受付嬢はいかにも困惑した顔をしている。
「依頼をしても人が集まらなかったから、依頼人の子が怒ってる、って感じでもないな。あの背負い袋にクロスボウ。あの子冒険者だぞ」
ハーヴェイが冷静に分析する。が答えは出ないようだ。
「まぁいいです。ここで叫んでいても埒があきませんわね。もうこうなったら勝手にこちらで探しますから」
そういって少女は後ろを、つまりオレ達の方を振り向く。
必然、目が合う。大きめの帽子に包まれた髪は紫色。身長は……120cmくらいだろうか。シイナよりだいぶ小さい。
そして首から下げているのは冒険者の証であるプレート。色はブロンズ。この子……初心者じゃない!
冒険者になると、宿から首掛けのプレートが支給される。身分証も兼ねるそれは、功績をあげるごとに色が異なっていく。
オレ達ルーキーはホワイト。ホワイトから大体10個くらいの依頼をこなすとブロンズになれる、らしい。
その上はシルバー、ゴールドと続き、ブルー、グリーン、レッドはもはや伝説級、最上級のブラックに至ってはもはや神の領域だ。
ちなみにオレ達が目指している『勇者』は大体ゴールド以上で、国が関わる依頼を何度も成功させるとそのうち段々呼ばれるようになるっぽい。
「あらあら?」少女が目を細める。足の先から頭の上まで視線が動く。値踏みされてる……?
少女の視線はオレ、シイナと動いていき、ハーヴェイの顔で止まる。
「あらまぁ! 冒険者の……いえ、首になにも掛けてないという事は冒険者志望の方ですか? お名前をお伺いしても? あ、いえ、こちらから名乗るのがまず礼儀ですわね。わたくしはユイミ。ユイミ・シーザーと申しますわ。あなた方……とくにそちらの金髪のお方、お名前は?」
目をキラキラさせながら近寄ってきて、一方的にまくしたてられる。
「オ、オレはテイル・スワット……」「シイナ・ティンバー」「ハ、ハーヴェイ・コントラクトだ……よ、よろしく?」
「テイルさんにシイナさんにハーヴェイ様ですね。ああ、な・ん・て素敵なお名前♡ ハーヴェイ様、もしよければハー様と呼んでもよろしいでしょうか?」
シイナはともかくオレとハーヴェイが若干戸惑い気味に名を告げると、少女はハーヴェイの脚にすり寄り、ねこなで声を発する。ハ、ハー様???
「そ、それより、君はさっき受付の人と揉めてたようだけど、何かあったのか?」
ハーヴェイはハー様呼びに関しては一切触れず、ひとまず情報を聞き出そうとする。
「いやですわハー様♡ わたくしの事はユイミとお呼び下さい♡」動じないユイミ。
「あ、ああ、ユイミ、受付で話してたことを、僕に教えてもらってもいいか?」困惑がぬけないハーヴェイ。
「ああ、その事ですかー」
ユイミのテンションが一気に下がる。ちょっと底冷えしそうな声だ。
「いえですね。わたくし冒険家業中に遺跡をたまたま遺跡を見つけまして、それに同行してくださる方を探していたのですよ。しかし冒険者協会にお願いして早10日。だれ1人も集まらず、不貞腐れていたわけですが」
ユイミのテンションが徐々に上がっていく。
「なんたる運命の出会い! これは神の奇跡か!? まさかわたくしの目の前に3人もの若き勇者が現れるとは!!」
感極まったように両手を上げて満面の笑みになるユイミ。
ん? 気のせいか。一瞬こっちを見た時、ユイミがいかにもネズミをとって食おうとしている猫のような顔にみえたんだけど。
「なるほど。それで僕ら3人を誘いたい、ってことか。そのことは一旦保留して、まずは冒険者登録をしてもいいか?」
「あら、あらあらわたくしとしたことが! これは失礼致しました。それでは、わたくしは向かいのカフェでお茶をしていますので、登録が終わりましたら、是非……♡」
そういうと、ユイミは笑顔のまま宿を出ていった。
なんだったんだ、一体……?
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