第2章 【登録】

第14話

――――

言葉とは、己の意思を示す剣である。

剣は時に他者を傷つけ、時に他者を守る。

傷つけられた者は別の者を傷つけ、守られた者は別の者を守る。

いつか、傷つけられた者と守られた者は出会うだろう。

そして傷つけられた者は癒しを得て眠る。

穏やかに、静かに、安らかに。

――――



 オレ達がゴブリン退治をしてから2日目。

 ハーヴェイもかなり回復し、普通の活動が出来るようになってきた。本人はまだ痛むと言っているが。

 なので今日は町長さんに明日出発することを伝えるためと、これから必要な道具を買うために街を散歩という事になった。


 町長さんは

「そうか。傷が良くなって何よりだよ。応援している。いつでもこの街に寄ってくれていいからね」

 と別れを惜しむように言ってくれ、さらに首都への馬車も手配してくれることになった。

 さすがにそれは、と3人で遠慮したのだが、報酬を支払えないせめてもの礼だ、といわれてお世話になることにした。


 買い物のために商店にいくと、

「ああ、あんたたちかい。エイミちゃんを助けてくれた冒険者さんってのは」

「おお、元気になったのか。よかったよかった。ほら、うちの干し肉だ。持って行ってくれ」

 と、あれよあれよと人が押しかけてやれうちの薬草だやれうちの防具だやれうちの修繕具ももらってくれと、欲しいものも必要そうなものも大量にタダかとんでもなく格安で手に入ってしまった。

 正規の金額を払う、といってもお礼だから、廃棄品だからといって全然聞いてくれない。てか廃棄品って絶対ウソだろ。

 せめて首都で有名になった時に宣伝して礼をするしかない。


 そうして新しい道具を背負い袋に入れたり、装備して具合を調整したりしているうちに午後3時。

 オレ達は一旦宿の庭に出て、新しい装備の具合を確かめるために模擬戦をすることにした。


 オレとハーヴェイは頭に革製のバンド、首に麻のスカーフ、身体には革の胸当て、肘、膝にも革の当て具。サブウェポンにナイフを2本ずつ。

 シイナは頭と首に麻のスカーフ、身体には頭からかぶるタイプの麻のオーバーコートを着た。サブウェポンは目つぶし液に煙幕だ。

 頭のスカーフにはシイナが自ら刺繍した花のワンポイントが入っている。可愛い。


「よーし、テイル、いくぞー!」

 十分な距離を取って、右手に木剣、左手に子供遊び用のボールを2個持ったハーヴェイが呼びかけてくる。

「いつでもいいけど無理するなよー! 傷が開いたら元も子もないぞー!」

 まずはハーヴェイとの一戦。シイナは長椅子の上で見学だ。

 子供遊び用のボールは模擬戦でのサブウェポンの代用だ。

 まさか模擬戦でナイフを投げるわけにはいかないがいい案もなくて街の商店で相談したら子供のお古だといってタダでくれた。


 こちらが構えると、ハーヴェイは左手のボールを2個とも投げて走って向かってきた。

 最初に牽制用に使ってきたか。ではこっちは練習の成果を見せようじゃないか。

 意識を2つのボールに集中。ハーヴェイに向かう意識を最低限にする。

「よっ!」コッコッ、と二つのボールを剣で叩き落す。よし、ちゃんと当たった!

「おお?」「おー」これには近づいてきているハーヴェイも見学中のシイナもビックリだ。

これは攻撃の当たらないオレが見切りの技の練習中に編み出した新技、その名も〈チョイ当て〉だ。

 力を抜いて、完全に当てる事だけに特化した剣。威力は全くないけど、俺の目指している見切りはぶっちゃけ手首の腱さえ切れればいいから問題ない。

 当てることが大事。名前は賛否ありそうだけど。

「凄いなテイル! 当てられるようになったじゃないか! なら、これはどうかな!!」

 そういってハーヴェイは剣を最上段に構えて、一気に振り下ろしてくる。しかもそれだけじゃない。右膝で腹を狙ってきている二段攻撃だ。

 さすがハーヴェイ。動けない間にもしっかり新技のアイデアを練ってきてるじゃないか!

 それに対してオレは右手の剣の柄でハーヴェイの剣を受け、ボールを持った左手でハーヴェイの膝を受けた。

 さっきも言ったが、ボールはナイフの代わりだ。ハーヴェイは太ももをナイフで刺されたことになる。一本取った!

「くそっ、負けたかー! もっと訓練する必要があるな。おめでと、テイル!」

「おっし!! 初勝利!! ハーヴェイ、ありがとな! 蹴りのほうはもうちょっと遅く出すといいと思うぞ!」

 念願の初勝利、しかも道場最強のハーヴェイから! これはうれしい。シイナもうれしそうに拍手してくれた。思わずVサインを送る。


 そしてシイナとオレの模擬戦。

 オレが受けの姿勢をとったところに、シイナが走りこんで袈裟斬りにしようとしてくる。

 オレが下段に構えた剣をそこに〈チョイ当て〉しようとすると……、

「えい」

 シイナが、オレの構えた手を左足で蹴ってきた。ゆるく握っていた剣が手からすっぽぬける。

「は?」思わず声が漏れて、すっぽぬけた剣を目で追ってしまう。剣ナシでどう戦うんだ?こんなこと初めて……ってしまった!

 隙だらけになったオレの肩にそのままシイナの剣が触れて、一本。

「おお、なるほど。それが今のテイルの弱点か」見学のハーヴェイが感心する。

「ん。テイル、1度成功した技を何度も出す癖、昔から直ってないね」

「く、くそ……」オレの新技が一発で看破されてしまった……。


 その後、一通りの組み合わせを試した後、2対1もこなしてみる。

 ボールは飛んでくるし蹴りも来るし、剣と拳だけの道場とは全然違う。

 結果はオレ1勝1敗、ハーヴェイがまさかの全敗、シイナが全勝で、2対1では1人になった方が全員負けた。


 初勝利だったけど初敗北。これから練習することは多そうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る