第12話

 ゴブリンを退治した翌朝。

 朝食にはまだ早い時間に、俺は宿の庭で1人木剣を振っていた。

 剣を下段に構え、敵が上段から武器を振り下ろしてくるのをイメージ。そこに剣を入れて武器を弾き飛ばし、そのまま袈裟斬りへと持っていく。

 昨日のゴブリンとの戦いで、オレが立ち上がった後、放ったらしい一撃の練習だ。

 実をいうと、立ち上がった後は無我夢中だったからあんまり記憶にない。

 この手順も昨晩の反省会でハーヴェイから教えてもらったものだ。


 そう、オレたちは反省会を行った。

 敵が2匹だと思い込んだことはもちろんだが、会話の中で俺たちは師匠の教えを忘れていたことに気づかされた。

 実は村出立前の宴の前に、師匠が道場で大事なことを話してくれていたのだ。


『これは、道場で教えると人間相手に真似する馬鹿が出てくるために、出立前にしか教えない』

『首都について十分な資金ができたら、必ず左手で取れる位置に緊急用の予備武器を用意しておきなさい』


 オレ達の流派では、戦闘では基本的に左手は使わない。盾代わりのガントレットをつけて、相手の攻撃を凌ぐ程度だ。

 だが、昨日の実戦をくぐりぬけて、なんで左手を常に空けておくのか、なんで師匠があんなことを言ったのかがようやく理解できた。


 左手は、実戦をより安全に潜り抜けるために使うものだった。

 例えば、あの時オレは左手でゴブリンを殴ったが、左手で取れる位置にナイフがあったらどうだったか。

 戦闘用のいいものでなくていい。調理や採集用の小型ナイフでよかった。

 それがあれば、腹を刺してほぼ終わっていた。


 シイナが弓ゴブリンに気づいた時も、ポケットに石でも入っていたら例え当たらなくても牽制になって、あの後ハーヴェイが一方的にやられる事態を防げたはずだ。

 煙幕だったらなおいい。少なくともあの弓ゴブリンはあの位置にいられなくなる。

 ナイフ、石、目つぶし液や煙幕他にもあれよあれよと、3人で考えただけでもあれば絶対に役に立つものはたくさん出てきた。

 そして全員、ひとまず小型ナイフを腰に括った。


 その後、敵を倒した時の記憶がほとんどないことを2人に話して、オレがどうやってゴブリンを撃退したのか聞いたのだ。

 オレが剣を敵に当てられていることにびっくりしたが、ハーヴェイは『もしかしたら、今までは人に怪我させちゃうんじゃないか、って無意識に思っていたのかもな』といっていた。

 そして一通り聞いた中でも、これは扱えたら便利そうだ、と思った技を今練習している。

 そう、防御の技から一つ発展させた〈見切り〉の技だ。

 普段は攻撃を防御して、相手の隙を見つけて武器を奪う。そして倒せずとも無力化する。

 これはオレに向いている技の気がする。

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