第11話
街に戻ったら、まずハーヴェイをベットに寝かせて、町長に報告にいった。
ハーヴェイがいない交渉事は不安だけど、なんとかするしかない。
昼前に帰ってきたことと、ハーヴェイがいないことに驚いた町長だったが、ありのままを全て説明して、証拠のゴブリンの耳と犠牲者の遺髪を渡す。
そして、依頼を完遂出来なかった事を2人で謝った。
謝罪を聞いた町長は、しばらく無言だったが……、ゆっくりと涙を流し始めた。
「いや、すまない。大変な思いをさせてしまったね。君たちがそんな顔をする必要はないよ。森の巡回は正式に冒険者に依頼を出そう。それと」
ついてきてくれないかな、と言う町長の後ろを、2人で歩く。
着いたのは、特別なところは何もない、この街の一軒家。
町長がドアをノックすると、中から30ほどの男性が現れる。
町長は、男性と少し話をして、彼に遺髪を渡すと、男性は泣き崩れた。町長が横にそれて、オレたちに前に出るように促す。
「ず、ずまない……! こんな、泣きながら、で……ありがとう。ありがとう。これで、妻を弔うことが出来る。本当に、本当にありがとう……」
言葉が、出なかった。
町長はもう一軒をまわり、同様に遺族に遺髪を渡すと、そこでも泣きながら礼を言われた。
やめてください。オレ達はボロボロになって、依頼もまともに完遂できず、帰ってきたんです。
感謝されるほど、強くなんてないんです。
「君たちは、自分たちの事を見習いだ、と言っていたね?」
町長は僕たちの事を宿まで送ってきてくれた。
「依頼を受けて、傷だらけになって、失敗した。失望される……そう、思っていたね」
心の中を見透かされる。顔が上げられない。
「私達は、そんなことは思ってないよ。君たちは、きちんと依頼を完遂してくれた。正義感から娘を助けてくれて、ボロボロになってまで遺髪を取り戻してくれた。君たちはこの街の英雄だ。感謝こそすれ、蔑みなどしない」
顔を上げた。町長は、やさしく微笑んでいた。オレの肩に手を置く。シイナは、泣いていた。
「強くなっておくれ。ここであったことを挫折と思わずに。そして、冒険者になっても多くの人を救ってほしい。君たちが私達にしてくれたように。君たちにはその資格がある」
気付いたら俺も涙を流していた。
「ごめん、なさい……! もっと、もっとうまくできた、のに……! つよく、強くなります。ありがとう、ございます……!!」
感情がごちゃまぜになっていた。でも、救われた、そう思った。
オレ達の初依頼は、確かに失敗したのかもしれない。傷だらけで、死にそうになって、依頼を途中でやめて。
でも、何もできなかったわけじゃない。エリスさんを助けたし、遺品を持ち帰ることが出来た。
全部が全部、ダメだったわけじゃないんだ。
強くなろう、そう思った。この街でもらった感謝を、また感謝で返せるように。
町長と別れて、ハーヴェイにこのことを伝えた。
「そうか……ムダじゃなかったんだな。僕たちのしたことは」
いつも通りの口調だったが、顔が窓の方を向いている。オレ達みたいに泣いているんだろう。
オレ達は部屋を出て、しばらくハーヴェイを1人にしてやることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます