第10話

        ◇


 私は見た。


 空を舞う棍棒。

 ハーくんが矢で撃たれて、私も倒れて、テイルが吹き飛ばされるのを見た。

 もうダメだと思った。みんなここで殺されちゃうと思った。

 でも、テイルは立ち上がった。

 そのまま逃げて、と叫びたかった。けれど、怖くて声が出ない。

 テイルに2匹のゴブリンが迫っている。

 ダメ―― 思わず目を閉じてしまった。でもテイルが殴られる音が聞こえてこない。

 恐る恐る目を開けて見たものは、ヒュンヒュンと空で円を描く棍棒と、襲ってきた2匹を、一瞬で袈裟斬りと胴薙ぎにしたテイルの姿だった。


        ◇


 僕は見た。


 右肩の傷をかばいながら、倒れたシイナを守ろうと後ろに下がり、ゴブリンの攻撃を凌いでいた。

 棍棒のゴブリンと弓のゴブリン。さらに2本身体に矢を受ける。

 これでは時間の問題だ。

 向こうでテイルが倒れる音が聞こえる。もうダメか?絶望が心を支配する。

 その時、見たんだ。

 テイルが起き上がり、2匹のゴブリンを一瞬で屠るのを。

 そしてこちらに距離をつめ、俺にまとわりついていたゴブリンの首を勢いそのままに突き刺した。

「ハーヴェイ!剣を貸せ!!」

 抜くのも面倒なのか自分の剣から手を放し僕の手から剣をもぎ取ったテイルは、それをそのまま投擲し、弓を構えていたゴブリンの頭に突き刺して絶命させていた。

 あの危険な状態から、ほとんど一瞬でゴブリンを全滅させるなんて!


「ハーヴェイ!シイナ!大丈夫か!?」

 テイルはゴブリンから自分の剣を抜きながらあたりを見回して周囲を警戒していた。

 そうだ。呆けている場合じゃない。頭を打ったシイナの状態を確認する。

「ん、少しクラクラするけど、大丈夫。ハーくん、守ってくれてありがとう。テイルはもっとありがとう。直ぐに治療するね。」

 幸い、シイナの怪我は浅いものだったようだ。テイルもそれを聞いて安心したのか、その場にへたり込んでしまう。

 おいおい、僕の心配はナシか?テイル。


        ◇


 よかった。シイナもハーヴェイも無事だった。

 まさか5匹もいたなんて……。くそっ。もっと出来る事があったはずだ。反省しないと。

 とりあえず、森の探索は終わりにしたほうがいい。

 オレとシイナは頭を殴られたし、ハーヴェイは3本も矢を受けた上に何度も身体を殴られていた。

 治癒の奇跡も万能じゃない。小さな傷は痛みもなく一瞬で消してくれるが、深いものになると1日2日は痛みが残ることがある。

 ここできりあげようと提案すると、2人とも賛成してくれた。

 冒険者の最低限のケジメとして、討伐の証拠にゴブリンの耳を切り取り、集落を破壊して、犠牲になった人達の遺品や遺髪を集めて弔った。


 そして動きが不自由なハーヴェイに肩をかして、街に戻るのだった。

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