第9話

「見つけた。ゴブリンの足跡だ」


 ゴブリン討伐のために森に入って1時間ほどがたった。

 ハーヴェイがゴブリンの足跡を見つける。

 この森はオレたちがいた村のそれより広いが、ゴブリンが森から出てきた場所がわかっているので発見はスムーズだった。

 もちろん、街から森に入るまでの道もひととおり確認しておいた。そっちの方は足跡ナシ。街が襲われる心配は当面なさそうだ。

 ここからはより慎重に音を立てないように歩く。周囲の警戒も密に。

 身長の違いで視界が塞がらないように、隊列もシイナ、オレ、ハーヴェイの順に変更する。


「(いた)」

 倒れた大木の先へ安全にどう回り込むか、周囲を確認している時にシイナがゴブリンを見つけた。大木を超えた先だ。

 奇襲には向かない配置になってしまったが、大木のお陰でこっちが発見される心配がないのはいい事だ。

 ゴブリンは予想通り2匹。ねぐらに座って休んでいる。

「(シイナ。奇跡を頼む。終わったら大木を飛び越えて攻めよう。オレが大きい方につくから、ハーヴェイとシイナで小さい方を)」

 奇跡があるならこのくらいの大木、飛び越えるのはわけない。そこから少し距離があるから気づかれるだろうが、十分先制はとれるハズ。

「(ん)」シイナが胸元の十字架を握り、祝詞をとなえる。

「(『偉大なるマルクト神よ。〈我らに守りをプロテクション〉、〈強き身体をブレス〉』ん。OK)」

 全身に力がみなぎる。3人でうなづいて、背負い袋を下ろして大木を飛び越えゴブリンへと駆ける。



『ギョ!?』

 ゴブリンが気づき、立ち上がって棍棒を握る。

 その間に左手で腹に一撃。剣が苦手なオレでも拳なら当たる。

 ゴブリンが苦し紛れに棍棒を振るが、それを剣で弾く。

 よし。十分有利な状態にもっていった。オレにしては上出来。

 目の前の敵に十分警戒しつつ、横を見る。やった。作戦は成功だ!

 今、ハーヴェイとシイナがゴブリンを1匹倒した。

 後は、俺が受け持ったゴブリンに2人が加勢してくれれば……。


 待て。ハーヴェイの様子がおかしい。なんでハーヴェイの肩に矢が刺さっている?

 ……!!! 木の上に、ゴブリンの伏兵!?

 シイナが気づいたけど、ダメだシイナ、伏兵は1匹じゃない! お前の後ろにもいる!!


 マズい、マズい、マズい! オレじゃ1匹で精いっぱいなのに、これじゃ


 そんな時、自分が抑えていたゴブリンが奇妙に身体を屈める。

 その後ろには、さらにもう1匹のゴブリンがいて、棍棒を上段に構えていた。

 うそだろ・・・! 何匹目だ!?

 頭を殴られ、たまらず吹き飛ばされてヤツらの寝床に倒れこむ。

 頭が熱い。たぶん血が出ている。

 思考が鈍る。こういう時どうすればいいのか、あまり怪我をしたことがないからわからない。

 それでも、2人を助けないと。そう思って目を開いた時、


 首から下の無い、打撲痕と擦過傷でボロボロになった、女性の生首と目が合った。


 ……ドクン、ドクン……

 傷口が脈打つのが感じられる。怖さで手が強張る。

 オレもこうなるのか? まだ何もしてないのに? 

 いやオレだけじゃない。ハーヴェイも、シイナもこんな姿に?

 いやだ。いやだ。嫌だ・・・!!

 オレが一番、守備に自信があるんだ。だから、オレが2人を守るんだ。

 必要とされているんだ! 2人を、助けるんだ!!


「うあああああああ!!」

 鞭で打たれたかのように立ち上がった。死にたくない。2人を殺させはしない!

 幸い、まだ剣は手放してはいない。

 ゴブリンが1匹向かってくる。棍棒に血がついている。オレを殴ったヤツだ。

 近くにオレが腹を殴ったヤツもいるはず。

 ゴブリンはオレをもう一度殴ろうと、オレを殺そうとよだれをまき散らしながら棍棒を振り込んでくる。

 オレは、剣を、下段に構えて、



 ゴブリンが振り下ろしてきた、その棍棒を握る指を、全て断ち切った――

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