第7話

 ゴブリンに襲われそうになっている女の人を助けないと!


 まず一番足の速いハーヴェイが女の人……というより、少女、といったほうが適切そうだ。そこにたどり着き、ゴブリンに剣を向けて牽制して少女の安全を確保する。


 すかさずオレも到着し、一番近いゴブリンの棍棒に剣を当てた後、大声で叫んで大振りに剣を振る。

 当然当たらないが、元々当てるつもりもない。ただの陽動だ。

 ゴブリンが全員こっちを向いた。よし。


 最後にシイナがゴブリンの死角から、走った勢いそのままに横薙ぎの一撃を放ち、1匹の胴体を両断する。

 ゴブリンの青い血が辺りに散る。

 そのままステップを踏んで隊列を整え、オレとシイナが前衛、ハーヴェイが後衛を務めて少女を守る。残り2匹。


 このまま戦っても問題なく勝てるハズだけど、多分そうはならない。

『ギギィ!』ゴブリン達が鳴き声一つ残して逃げていく。予想通り。

 オレ達の役割は少女を助ける事。ゴブリンを倒すことじゃない。

 シイナがちゃんとゴブリンの退路を開けておいてくれたから、要らない戦闘を避けられた。

 

 すぐにシスターでもあるシイナが少女の横に座り、全身をまさぐって傷の有無を確認する。すかさず目を逸らすハーヴァイ。

 こういう時、シイナは本当に容赦がない。少女の戸惑いの声が響き渡る。

 オレは残身を解かずにそのまま周囲を確認する。少女の声は聞かなかったことにする。健康に悪い。


「ん。左足の捻挫。他小さな擦過傷のみ。『偉大なるマルクト神よ。〈彼の者へ癒しをヒールエイド〉』」

「治癒の奇跡で大体一晩で痛みは引くはずです。お嬢さん、もう大丈夫ですよ。僕はハーヴェイ。お名前を伺っても?」

 ハーヴェイが優しい顔で語りかける。

 こういう時のハーヴェイは本当に口が上手い。あと顔もいいので大体ファンが出来る。

 すると、少女は安心したのか泣き出してしまった。

 あららら……。これは落ち着くまで待たないとな。



「……す、すいません。助けて頂いてありがとうございます。わたしはエイミと申します。ここからすぐの街の人間です……」

 やっぱりオレ達がこれから向かう街の人のようだ。

「あの! 貴方達は冒険者なのでしょうか? でしたら、是非お願いしたいことが。実は、森の中で私の連れ合いがゴブリンに、こ、殺されて……!!」

「エイミさん。落ち着いてください。お辛い気持ちは分かりますが、まずは御身の安全です。まずは貴女を村に送りますので、道案内をお願いしてもよろしいですか?」

 あと冒険者じゃなくて冒険者見習いです。それはともかくハーヴェイのいう通りだ。

 生きてるならともかく、もう殺されてるとなると、まずは生きている人の安全を確保するのが先だ。


「というわけで、ウチのテイルが貴女を背負いますが、よろしいでしょうか。安心してください。彼は紳士ですので」

 って考え事をしていたらハーヴェイがしれっと凄いことを言い出した。

 ちょっと待て! ここは同じ性別のシイナか、最初に声かけたお前の役割だろっ!?

「(って考えるのは分かるけど、お前が護衛に一番適しているだろう。お前が護衛の訓練を人一倍繰り返しやっていたの知っているからな)」

 顔に出てたのか、ハーヴェイが小声で諭してくる。

 確かに、攻撃がまともに当てられないから、攻撃以外の事は人一倍頑張った。護衛もその一つだ。

 オレなら戦闘になってもすぐに怪我人を痛みなく地面に下ろせるし、いざというときは怪我人を揺らさずに走ることもできる。

 そうだった、オレはデフォルトで攻撃が当たらないんだから、よくよく考えるまでもなく怪我人の輸送とかそういうのは始めからオレの役目だ。

「あ、安心してください。絶対に怪我しないよう運びますんで」

 精一杯の笑顔で、エイミさんに話しかけ、背負う。

 エイミさんの顔が見えないので怯えているのか怖がっているのかわからない。不安だ。

 ついでにいうと背負い袋は身体の前。

 最初ハーヴェイが持とうとしてくれていたが、断った。

 二人には万全の状態で戦ってほしい。俺の安全のためにも。


 こうして、トラブルに巻き込まれるのが確定しつつ、オレ達は初日の目標である隣街へと到着した。

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