第5話

 出立の朝、オレはいつもの時間に目を覚ました。

 日課の屈伸と軽い運動をする。

 そして、荷物を詰め込んだ背負い袋の中身の最後の確認をする。

 テントよし、保存食よし、ロープその他もろもろよし。

 そして寝間着を旅着に着替え、靴を履く。

 鎧なんて高価なものはもちろん無いが、足には靴擦れしないように履きなれたブーツ、左手には新品の木製手甲ウッドガントレット、右手には滑り止め付きのグローブ、腰に吊ってある剣の研ぎも完璧だ。(オレにはあんまり意味はないけど。)

 オレの両親やハーヴェイの両親、師匠、道場のヤツらに見送られて、オレたちは村を旅立った。



 村を出て、それなりの時間を歩いて今は昼時。オレたちは、街道のすぐ近くに立っている樹の影で昼食をとることにした。

 昼食というか、休憩だ。さっきからシイナの顔がどんどんこわばってるし、明らかに震えているし、足取りまでおぼつかない。

「シイナ、もう少しで休憩だからな?」

 心配して何度も声をかけるが、シイナからの返事は無い。不安でハーヴェイにも視線をやるが、なんでか無視される。

 おかしい。こういう時にいつもフォローしてくれるのがコイツのハズなのに。


 その疑問はすぐに解けた。


 休憩場所に到着するやいなや、シイナが「まだ座らないで!!」と大声で叫んだ。

 ビビって固まるオレ。動じないハーヴェイ。

 シイナは背負い袋を下ろし、そこから大きなシートを広げ、草原に敷く。

 「着席!!」すかさず響く号令。

 シートの上に正座するオレ。ゆっくりとあぐらをかくハーヴェイ。

 頭の中に疑問符が浮かぶ。シイナの大声のせいで上手く頭が回らない。

 気付くと、目の前に真っ白な布で覆われた四角いものが置かれていた。

「シイナ。ありがとう。ほらテイル、固まってないで食べろ。シイナへのお礼も忘れるなよ」

 言われてハーヴェイを見ると、白い布を解いて中から出てきたサンドイッチをむしゃむしゃとほおばっていた。


 ……。

 もしや、これは お 弁 当 !


 おおお! てっきり味のしない大しておいしくない保存食を食べるだけの休憩じゃなくて昼食になると思ってたけどお弁当!!

 体調悪そうに見えたのは緊張してたからで、足取りがおぼつかなかったのは単に3人分のお弁当を持ってて重たかったからか!

 訓練でもっと重たいもの持ってる気がするけどシイナ女の子だし小柄だしな! ていうかシイナ料理できたのか。シイナの手料理ってこれが初めてじゃね?

 よかったー。オレちゃんと歓迎されてるじゃん! 嫌われてると思ってたよ!

 二人で旅に出てくれとかいってた昨日のオレを殴ってやりたいよって今はそれどころじゃなくて!


「ありがとシイナ!早速食べさせてもらうわ!」

 ちゃんとお礼を言って、いうやいなやサンドイッチを口に運ぶ。う、うまい! これはチキン! オレの好物覚えていてくれたんだ!

「うまい! うまいよシイナ! ありがとう!!」

 礼をいいながらバクバク食べる。シイナを見ると、目は合わせてくれないが「ん」とうなづいて、

「テイルは、別に弱くないし、邪魔者なんかじゃないから。期待してる」

 そういってくれた。そうかー! オレ必要とされてるのか! なんかすごい元気出てきた! 昨日までなんでウジウジ悩んでたんだろうオレ!

「ありがとう! オレ、シイナの事絶対に守るから!!」

 最高にハッピーすぎて、思いがけない言葉が口から飛び出た。しまった。今の告白っぽく聞こえない?

 案の定、シイナはその言葉をきくやいなや急にそっぽを向いてしまった。

 ああ、折角シイナが歩み寄ってくれたっていうのに、なにをやってるんだオレ……。

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