第4話

 自宅に帰ったオレは、母親との挨拶もそこそこに自室のベットで横になって、考え事にふける。


 この村では、子供は7くらいになったら道場に入って剣を習い、大体15か16になったら冒険者になるために村を出る、という習わしがある。

 この習わしがいつから出来たものなのか、他の村でも同じなのかは、オレはよく知らないしあんまり興味もない。

 ただ、それが当たり前だと思ってずっと過ごしてきた。

 村を出て、都市で冒険者になってからは、まぁ色々だ。名を上げて国属の騎士になったり、そのまま冒険者を続けたり、怪我したり挫折したり子供が出来たりで村に帰ってきたり、商売を始めたり。

 オレも昔は『大きくなったら冒険者になって、功績をあげて勇者って呼ばれるんだ!!』と無邪気に憧れていたものだ。


 現実はそんな甘くない。


 オレは道場で誰にも勝てないのだ。

 入ってきたばっかりの10近く年下の子供にすら勝てない。

 ぶっちゃけ最底辺。情けない事この上ない。

 とはいえ、ハーヴェイのいう通り、誰にも有効打を打たれた事はない。

 防御には自信がある。が、それだけだ。

 1人で村を出たあと、ゴブリンなり獣なりに出会うとする。その時2匹以上と出会ったらアウトだ。

 1匹目を相手にしている間に2匹目にやられる。

 それ以前に2匹で出会ってもヤバい。勝てないから隙を見て逃げるしかないのだ。

 詰んでる。

 だから、村を出る事はすごく悩んだ。正直、村に残って一生を終えた方がいいんじゃないかと。

 でも、そんなヤツは今まで見たことがない。絶対に笑いものにされる。


 両親に相談することも考えた。

 だが間違いなく父親には怒られ母親には泣かれて、ロクな結果になると思えない。

 万が一『村から出たくないか。そうか、それもいいだろう。お前の人生だ。』と理解を示されて生暖かい目で見られるのもイヤだ。

 両親から一生そんな目で見られるのなら翌日に首を吊る。


 ハーヴェイと師匠には相談した。

 だがハーヴェイはいつもの調子で『大丈夫だ。テイルの実力は僕が保証するよ。気にするな。』というだけだし、師匠は師匠で『己の心に従え』というだけで全く参考にならない。

 ついでにいうと、師匠がバラしたのかたまたま聞いたのか、翌日シイナですごい目で睨まれた。

 シイナに相談する線も消えた。(元から怖くて相談できなかった気もするけど)


 ……今気付いたが、もしかして、師匠がシイナにオレの事をお願いした、って事はないか?

 それで余計なお荷物を抱えることになったシイナに睨まれたんだとしたら目も当てられない。そうでないことを信じたい。


 だってさぁ、なんというか、小さな頃に約束したのだ。オレとハーヴェイとシイナの三人で。

『三人で一緒に村を出て、冒険者になってかっこいい騎士になろう!』

『騎士は、バラバラになっちゃうかもだから、ちょっとヤだ』

『じゃあ、勇者だ!3人で勇者になろう!』などと。

 師匠も笑いながら聞いていた気がする。


 いやしかし、なんていっても子供の頃の約束だ。

 今更反故にされても別に怒りはしないし、ハーヴェイはともかくシイナとはその後険悪な関係になっちゃったし、何より、そんな子供の頃の約束を大切にして命を賭けるなんて間違っている。

 というか、いっそ俺を置いて二人で旅に出てくれれば諦めもつくのだ。

 二人とも強いし、仲いいし、ハーヴェイは金髪でシイナは銀髪で二人とも髪の毛サラッサラだし、シイナの出るとこが出てないのは残念だけど美男美女でお似合いだし、中肉中背、赤と黒が混じったようなボッサボサの茶髪のいかにも冴えない顔したオレよりずっといい……。


 ……。

 やめよう。不毛だ。

 とりあえず、3人で旅に出ることになった。オレの役目は敵の中で一番強そうなヤツを食い止める。それだけを考えよう。それ以外を考えると死にたくなる。


 そんないたたまれないオレの心境を表したのか、夕食の宴はあんまり楽しいものではなかった。

 三人それぞれの好物が並んだ食卓は豪勢で文句のつけようもないのだが、シイナは不愛想でオレとほとんど話さないし、師匠は珍しく上機嫌かと思ったら酒をがぶがぶと飲んで速攻で轟沈してしまうし、ハーヴェイはそんな空気おかまいなしに楽しそうに思い出語りをしてるし。

 せめて師匠とはちゃんと話しておきたかったんだが。

 感謝とか感謝とか感謝とか。あとオレの事シイナに言ってないかどうか。


 そして、出立の朝がきた。

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