第2話

話は、数日前から始まる。



「くっ、最後の最後まで結局誰にも勝てなかった……!」

 村の子供の誰もが通う道場から外に出て、肩を落として愚痴をこぼす。

「そういうな。その代わり、テイルは最後まで誰からも有効打を貰わなかったじゃないか。僕どころか師匠相手でも」

 一緒に外に出てきた、幼馴染のハーヴェイがフォローを入れてくれる。


「それはそれ、これはこれ。大体、明日から冒険者になるっていうのに、敵の一人も倒せないとか、絶対笑われる」

 桶に溜まった水を頭から被りながら、愚痴を続ける。ふう、井戸水が冷たくて気持ちいい。

「そのための僕とシイナだろ。何のためにパーティがあると思ってるんだ?」

 笑顔で思いっきり背中を平手打ちされる。いってぇ!! コイツ、見た目が細いのに筋力があるんだよな。

 俺と違って背も高いし、顔もいいし、何でも出来るし……くっ、惨めになってきた。やめやめ。話題を逸らそう。


ハーヴェイに渡す分の井戸水を桶にくみながら、

「そのシイナだけど、ホントに俺たちに付いてきていいのか? 大事な道場の跡取り娘だろ?」

「本人が一緒に行くって言っているからいいんじゃないか? それに、道場の後を継ぐなら、なおさら実績が必要だろ。ああ、噂をすれば本人だ」


 確かに後ろを振り向けば、大きな袋を抱えた小柄な子が、不機嫌な顔でこっちに向かってきている。……聞こえたな。これは。

「ん。そういう事。それに、ハーくんはともかく、テイルが冒険者とか、不安しかない。私とハーくんでしっかりフォローしないと」


 言いながら、抱えていた袋を至近距離から全力投球されて押しつぶされる。中は他の生徒が汗拭きに使った布だから痛くはないが……く、くさい。

「あと、頭から水かぶるの禁止って、いつもいってる。これ、全部洗っておいて。罰だから」

 そういって、シイナはオレに目も合わさず、きびすを返して道場に戻っていってしまう。まじか。これ全部とか……日が暮れちまう。

「ははは。ついてないなテイル。まぁ、オレも付き合ってやるから元気出せ」


 こうして、オレ達は道場でひと汗かいた後に、もうひと汗かく羽目になった。

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